AIをもう一人の相談相手に
――将棋界とAIの関係は、他のクリエイティブな分野にも参考になる点が多そうですね。
杉本:将棋の世界は、AIの参入が早い方だと思います。AIのいいところは自分のペースで使えたり、新しいものですから、将棋歴の違いにかかわらず同じように使えること。常に学習を続けているので、感覚が古くならないという利点もあります。ただ、本当にうまく付き合えているかどうかは棋士によるでしょうね。
額賀:出版界ではまだ、作家も編集者も「どうしたもんかね」となっている状態です。すでに使っている同業者によると、本文を書かせるのではなく、プロットの段階で、生身の編集者とは別にもう一人の“相談相手”として使っていたりするようです。
一方で、AIに頼りすぎると果たして誰の作品なのかという問題が出てきてしまう。だからみんなうまく手を出せずにいるんです。でも、いま伺った「AIはマイナス評価をしていても、自分の将棋にこだわってあえてその手を指すこともある」という例は、小説家がAIと付き合っていく上で一つの指針になるんじゃないかと感じました。
旋律のように勝負の手が浮かぶ
――最後に杉本八段にお伺いしたいのですが、「天才」とはどういうものでしょうか。
杉本:将棋の能力という見方をするならば、ある盤面を見たときにひらめくまでの時間の速さですかね。1秒で次の手が浮かぶ人と1分で浮かぶ人では、勝負の上で大きな差が出てきます。パッと見た時に「この最善手はこうでしょう」「ここが急所ですね」と気づく人は才能があるなと思います。
――藤井七冠も、そのスピードが非常に速いのですね。
杉本:ええ。特に詰め将棋――相手の玉を詰ませる手を思いつくまでがびっくりするくらい速くて。もう考えているというか、浮かんじゃうんですね、その最終形が。盤を見た瞬間に。これは才能で、努力だけでは多分たどり着けないんじゃないかなと思います。音楽でいうとモーツァルトの才能みたいなものに近いというのでしょうか。旋律が浮かんでくるんでしょうね。
盤上の勝負の世界に生きる者と、言葉の世界で創作を続ける者。それぞれの視点から語られる「天才」の実像や才能との向き合い方、さらにAI時代における小説と将棋の未来までたっぷり語り尽くされた対談の様子は、「文藝春秋PLUS」でご覧いただけます。
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