現在、都内のクリニックで働く歯科医の矢作有紀奈さん(30)。現役歯大生でありながら2016年にSKE48のメンバーとなり、一時期は学業とアイドルを両立した異色の経歴の持ち主だ。唯一無二の“歯科ドル”として過ごした数年間に、いったい何があったのか。現在のキャリアを選んだ理由とは――。ライターの徳重龍徳氏が詳しく話を聞いた。

SKE48の元メンバーで現役歯科医の矢作有紀奈さん

大学との両立、上下関係…アイドル時代の尽きない苦労

 もともと芸能界にはまったく興味がなかったという矢作さん。医学部に2浪して入った歯学部では、朝から晩まで勉強に追われる生活を送っていた。転機となったのは妹・矢作萌夏さんの「付き添い」のつもりで参加したSKE48のオーディションだった。

「妹がAKB48とSKE48のオーディションを受けることになって。ただ当時、妹は中学生だったので一人で名古屋まで行かせることを母が心配していて。『付き添ってあげて』と言われていたので、ただの付き添いだと思って『はいよ』と答えたんですが、実際は私の資料も送っていたんです」

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 戸惑いの中、トントン拍子に審査を通過し合格。晴れてSKE48の8期生となった。しかし「大学との両立は可能なのか」という大きな不安もあったという。

「合格の辞退もすごく考えました。当初スタッフさんから『大学を辞めるか、アイドルを辞退するかどっちかだ。生半可な気持ちでやるな』と言われていて。1年間休学するには300万円も支払わなくちゃいけなくて。母はお金のこともあってすごく悩んでいましたが、最終的に『投資だね。その代わり、将来返してね』と言って、休学を許してもらいました」

 ほかにも苦労は尽きなかった。特に気になったのは周囲との年齢差だ。矢作さんは加入時に20歳を超えていたが、同期には小学生もいた。中学生の先輩には敬語を使わなければいけなかった。

「SKEはすごく体育会系で、そこにびっくりしました。私の中でアイドルって、もっとキャピッとしていればダンスもそこそこでいいのかなって思ってたんですけれど、実際は女子ダンス部みたいなスパルタで。つらくて結構泣いたりとかもしてました。若い子ってすぐ振り付けを覚えられるんですよ。でも私は全然覚えられなくて。そこでもすごく苦労しました」

 

「なんで公演に出ないの?」だんだん居づらくなっていった

 1年の休学期間が終わり、矢作さんの生活はさらに多忙を極める。キャリーケースを持って大学へ行き、授業が終わるとそのまま新幹線に乗って名古屋へ向かう……。それでもなかなか公演に出られず、「レアキャラ」のようになってしまったという。

「東京でダンスの練習を1人では続けてはいたんですが、なかなか名古屋での練習には参加できないので『なんで練習に出ないの?』とメンバーからも思われていたと思います。特別扱いのように思われて、だんだん居づらくなっていきました。ファンの方からも『なんで公演に出ないの?』と問い詰められたり、アンチも出てきて」

 そして2018年10月、矢作さんはSKE48を卒業する。無事大学も卒業した後、当時合格率6割だった国家試験に挑戦。その時に役立ったのは、意外にもアイドル時代の経験だったと語る。

「もしSKE48の活動がなければ『私は歯医者になるしかないんだ。合格するしかない』とプレッシャーがかかって、メンタルを病んでいたと思うんです。でもアイドルをやったことで『別に歯医者じゃなくて、他の職業だっていっぱいあるじゃん』と考えられるようになっていたんです。逆に謎に余裕がありすぎて、国家試験2週間前からYouTubeを始めてみたりしてました(笑)」

 

 現在は“歯医者さん”として日々患者の治療をしながら、自由な働き方を求めて努力を続ける矢作さん。これからは並行してタレント業にも再び力を入れていきたいという。元「歯科ドル」の歩みはまだ始まったばかりだ。

写真=山元茂樹/文藝春秋

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 矢作有紀奈さんとAKB48のセンターを経験した妹・矢作萌夏さんの関係、先輩松井珠理奈さんからの突然の連絡、知られざる芸能人の“虫歯事情”など、さらに詳しいインタビューの全文は、

#1『「もしかしたら私、いけるのかも」2浪して歯科大入学→SKE48のメンバーに…元“歯科ドル”の矢作有紀奈が語る、「二足のわらじ」生活の意外な始まり
#2『「もうやめたい」と言ったら先輩・松井珠理奈から突然電話が…現役歯大生でSKE48だった矢作有紀奈が語る“アイドル時代につらかったこと”
#3『現役歯大生時代にSKE48で活動→国家試験に合格して“歯医者さん”に…元アイドルの矢作有紀奈(30)が教える「本当に良いクリニックの選び方」

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