そんな生活が当たり前となっていた大学3年生の頃、弟が自死した。進学先の高校を見定める時期の出来事だった。奥村さんも親から弟への圧が増していたのは気づいていたが、自分も通った道だったから弟の悩みの深さに気づけなかった。
深いショックと後悔は奥村さんをしばらく行動不能にし、やがて「gedokun」を作り出すことになる。
「最初は仲良し家族でしたし、振り返っても虐待とまではいえないくらいの環境でした。そういう家庭にいて、吐き出したいものを抱えている子は他にももっといるんじゃないか。そういう子たちの居場所が作れたらいいなと思って始めました」(奥村さん、以下同)
弟の死からおよそ1年が過ぎ、心が落ち着いてくると何かを作り出したい衝動に駆られた。元々モノ作りが好きでデザイン工学部に入学した下地があり、プログラミングを勉強して掲示板サイトをイチから構築した。
2021年3月に公開すると、まずは家庭環境に苦労してきた社会人に刺さった。そこからじわじわと悩みを抱える少年少女にも広がっていった。
少年少女が「うざい」と思うことはしない
悩みを抱える少年少女に「寄り添わない」コンセプトは開発段階から定まっていた。だからgedokunには投稿に対する返信機能がない。
「誰かから非難されるのが嫌だったんですよ。当時は『毒親』という言葉が流行り始めた時期で、Twitter(現X)を眺めていると、誰かがポストした毒親関連の投稿に『今の若者は甘い』や『あなたは殴られてないんでしょ』といったレスがつくのを何度も目にしました。そういう不用なジャッジがされない安心できる場所にしたいと思いました」
弱音や悩みを吐露すると、素朴であればあるほど説教やマウンティングを招く。そこに「死にたい」というニュアンスが含まれるとさらなる悪意を呼び込むこともある。だから危険な関係性を生むきっかけに使われないように、個人情報を伝え合えるような仕組みも意識的に避けた。ある種、Xが反面教師になったという。
温かみのあるカラーリングやデザインも意図的に避けた。そこには自分が支援の対象から外れたと感じた高校生時代の記憶がある。
「家庭がゴタゴタし始めた頃に相談窓口をいくつか頼ったんですが、だいたい事情を話すと『虐待ほどではないかな』と判断されて、そこで終わりでした。寄り添ってくれる空気を出しておきながら何だよと思い、それから連絡しなくなりました。だから、期待させて裏切るのではなく、最初から『独りになるよりかマシ』というくらいの場にできたらと考えていたところはあります」
