NPO法人「第3の家族」代表の奥村春香さんは、学生時代に弟の自死を経験したことから、少年少女が自由に悩みを吐き出せる場をオンラインで提供している。その特徴は「寄り添わない」こと。正義圧も道徳圧も温かみもいらない。そんな運営方針にたどり着いた理由を伺った。(全2回の2回目/最初から読む

NPO法人「第3の家族」代表の奥村春香さん 筆者提供

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「野放しにすると一瞬で荒れてしまいます」

 希死念慮や自殺願望を吐き出せる場で安心安全を維持するのは並大抵のことではない。筆者も故人が残した痕跡を追う調査の一環で、メンタルヘルス掲示板や相談サイトを複数追いかけてきたが、利用者間のトラブルや危険な書き込みを削除するメンテナンスなどの対応により、活動を休止した事例を何度も目の当たりにしてきた。

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「第3の家族」が運営する匿名掲示板「gedokun」も腐心していることがアップデート履歴から見てとれる。2024年にドメインを整理した際、いの一番にNGワードを設定し、自殺の具体的な方法や個人の連絡先などが書き込めないようにした。それでも隠語や言い換えなどでかいくぐろうとする利用者もおり、運営による投稿削除や、特定の利用者をBAN(利用停止)にする機能も数ヶ月のうちに実装している。

「利用者は中高生が多くて、小学生の書き込みも増えています。そうなると、自殺の方法を書いたり尋ねたりするのはNGということをまだ知らないこともよくあります。野放しにすると一瞬で荒れてしまいますから、頑張って対策しています」

 ChatGPTを取り入れたのも、文脈から内容を判定して膨大な書き込みに自動で対応するためだ。書き込みにはレスが付けられないが、「さっき投稿した人、よかったら連絡ください」といった内容を含めた文面を投稿することはできる。そうしたアプローチも奥村さんとスタッフの目、生成AIを駆使して潰していかなければならない。

 最近とりわけ手を焼いているのは自傷行為の書き込みだ。

「『リスカやめられない』『お母さんにオーバードーズがばれてすごく怒られた』みたいな気持ちを吐き出すのはOKなんです。ただ、そこに傷の具合がかなり具体的に書かれたりしたらNGになったり。線引きが本当に難しいですね」