中高生が見ている世界

 奥村さんは毎日欠かさずにgedokunに目を通している。だから些細な変化も察知する。奥村さんが中高生だった時期から10年も経っていないが、見える世界だけでなく全体的な気質にも変化が起きていることを感じるという。

「悩みを抱えているときに外に不満を感じるよりも、『自分が悪いんだ』『人に迷惑かけちゃダメだ』と内側に向くタイプが増えているような気がします」

 小中高生の自殺の増加傾向が続いているのは前編で触れたとおりだ。増加といっても全体数から言えば微かな差でしかなく、その原因を探るにはミクロ(個別)とマクロ(俯瞰)の調査を並行する必要がある。奥村さんが日々の営みから得た知見は、この文脈においてとても貴重だと筆者は感じる。

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小中高生の自殺者数の年次推移。厚生労働省「令和6年中における自殺の状況」より

 冒頭で触れた「令和6年版自殺対策白書」には、中高生の日別の自殺件数も掲載されている。それによると、年間を通してもっとも多いのは9月1日だ。お盆が終わった8月後半から数値が伸びてきて、多くの地域で学校が再開されるその日にピークを迎えている。

 この流れは、奥村さんが語るgedokunの投稿頻度の変化と重なる部分がある。

「休みに入った直後は案外動きがなくて、夏休みや冬休みが始まった1~2週間後くらいから投稿が増えていきます。休みの最初は結構バタバタしていて、しばらくすると家で何もしない時間ができて、それで投稿するというパターンですね」

 学校が始まれば「第1の家族(家庭)」の時間が減って「第2の家族(友人関係など)」の空気が吸える。一見すると「第3の家族」に居場所を求める機会が減りそうだが、前述の通りに悩みの内容は複雑に絡み合っている。環境が強制的に変化するタイミングはやはりリスクだ。それを踏まえて奥村さんはこう語る。

筆者撮影

「悩みを抱えている人には、『迷惑どんどんかけていいよ』と伝えたいです。親に自分の気持ちをぶつけてもいいし、教師に『もう無理です』と言ってもいいし、内側で我慢せずに吐き出してほしいです」

 それでも悩みに苦しめられるのなら、「第3の家族」で居場所を探せばいい。gedokunのほかにも、音楽ライブや母の日に集まる「裏母の日」などのリアルイベントも企画している。複数のクリエイターが一緒に悩みを考えるYouTubeチャンネル「@GY4Ych」も始まっている。

 筆者は1年前に「死にたい」と吐露したSNSやブログを追いかけた本を刊行したが、その調査の過程で感じたのは、深い悩みはとにかく大きな反響を生むということだった。深い悩みの投稿ほど多くのレスや「いいね!」が集まっていたし、書き手に分かりやすい落ち度がある場合も、アドバイスに罵詈雑言が混じってそのぶん反響が増えたりしていた。総じて構われる。とにかく放っておいてもらえない。

 そんな光景を見てきた筆者の目には、gedokunは吸音材に囲まれた部屋のように映った。防音室のように重厚な部屋ではなくて、ただ吸音材を丁寧に貼っただけのシンプルな小部屋のイメージだ。吐き出したい感情で心が押しつぶされそうなとき、こういう部屋が開いていると知っていたら、いくぶんかほっとできないだろうか。オンラインでもオフラインでも、そういう場が増えたらいい。

【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

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