本書は、大勢のタナカヒロカズさんが同姓同名でギネス記録を目指す笑いあり涙ありのユーモラスなエッセイでありながら、巻末に記された約100冊の参考文献が表しているように“名前”の存在や歴史を紐解いていく学術書の色合いもある力作です。
子供の頃は普通過ぎて自分の名前が嫌いだったという著者の“ほぼ幹事”田中宏和さんは、1994年秋のプロ野球ドラフト会議で“田中宏和投手”が近鉄バファローズからドラフト1位指名されたニュースを目にした事で、“雷が我が身に落ち、血液が逆流するような喜びを感じた”と語ります。そこから同姓同名に興味を持ち、“田中宏和同姓同名収集活動”をはじめるのです。そしてついには同姓同名の集いでギネス記録を目指します。
田中宏和さん達は67人の記録としてギネスに申請するも、立ちはだかったのは164人のマーサ・スチュワートの大記録。果たしてギネス世界一の座はどうなる? という、悲喜こもごも紆余曲折の活動が面白おかしく描かれている本書。
そんな著者の“ほぼ幹事”田中宏和さんと僕の出会いは、5年前に遡ります。
本書の7章で触れられているように、僕は『同姓同名』(幻冬舎文庫)というミステリーを上梓しました。刊行後に担当編集者から田中宏和さんの事を教わり、そこで初めて『タナカヒロカズ運動』の存在を知ったのです。同姓同名をテーマにしておきながら、田中宏和さんの運動を知らなかった事は恥じるばかりですが、本書の中で繰り返し語られているように、僕にとってはこれも“縁”でした。
そんな著作『同姓同名』が朗読劇になり、上京して観劇した日の事です。趣味であるサッカーゲームの『eFootball』を通じて交流しているプロゲーマーの友人と会い、『同姓同名』朗読劇の話をした時、彼は思い出したように言いました。
「同姓同名といえば、敦史さんは『タナカヒロカズ運動』って知ってますか? そういう同姓同名の運動があるんですけど、実は僕の父が田中宏和で、初期から運動に参加しているんです」
それを聞かされた僕の驚きたるや! なんと友人のお父さんはタナカヒロカズ運動の“一桁ナンバー”だったのです!
自分の同姓同名と出会った事がない僕が、先に“田中宏和さん”の息子さんと出会っていたのですから、笑わずにはいられません。どの“田中宏和さん”なのかは、内緒にしておきましょう。あの“田中宏和さん”なのか、この“田中宏和さん”なのか。
なんとも愉快です。
あなたの周りにも田中宏和さんがいるかもしれません。本書を読めば、インターネットで自分の名前を検索してみたくなること間違いなし!
たなかひろかず/1969年京都府生まれ。タナカヒロカズ運動発起人の「ほぼ幹事」。タナカヒロカズ株式会社の代表取締役社長兼CEOを務める。
しもむらあつし/1981年京都府生まれ。2014年に『闇に香る嘘』で江戸川乱歩賞受賞。著書に『同姓同名』『暴走正義』など。
