情報がなく右往左往するばかり

 だが、球団オーナーと側近以外は秘密裏の交渉や再編の向かうところを知らない。まして、スポーツ記者は事前に何もわかっていなかった。情けないことだが、読売運動部も私も情報がなく右往左往するばかりだった。

 彼らはもともとスポーツ取材に特化した記者ばかりである。球界首脳に夜回りする習慣もなかった。やむを得ず、部長の私が巨人の球団代表らをつかまえたり、電話を入れたりして取材する羽目になった。

 そして、1カ月半後、読売一面や運動面で「野球再生」という長期連載を始めた。彼らには慣れないテーマだったから、コンテ作りから指示し、連載の前書きは私が書いた。前文にはこう記した。

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〈野球界が危機に直面している。近鉄とオリックスの統合で球団が減るからだけではない。パ・リーグ各球団の昨年度の実績的な赤字額は、判明分だけで計154億円にも上った。多くのプロ球団とそのすそ野を形作る社会人野球は、球団、親会社の赤字や経営不振で立ち行かないのだ。(中略)圧倒的なファンに囲まれる一方で、球界が赤字に押しつぶされそうな矛盾は、日本野球が構造改革を迫られていることを示している。もつれた球界再編劇の糸をほぐしながら、野球の未来をシリーズで考えたい〉

 渡邉の思惑はともかく、球界が抜本的な改革を求められていることだけは確かだった。しばらくすると、意外なところから反応があった。

 渡邉が「球界の再建策について聞きたいから夜にちょっと来てくれ」と言っているというのだ。

古田敦也氏 ©文藝春秋

 そのころ、渡邉は酩酊したところを記者団に囲まれ、「たかが選手」と発言して激しい批判を浴びていた。渡邉は、日刊スポーツの記者に「選手会の古田敦也選手会長が、できればオーナー陣といずれ会いたいと(言っている)」と問われて、こう言った。

「無礼なことを言うな。分をわきまえないといかんよ。たかが選手が。たかが選手だって立派な選手もいるけどね。対等に話をする協約上の根拠は一つもない」

 その失言で、世論は選手会に同情し、彼らの叫ぶ2リーグ制維持に傾こうとしていた。