女性のセックスや欲望をどう描き出すか
インタビュー中、ラベドがたびたび口にしたのが「女性の経験」という言葉だ。俳優としての経験で学び取ってきたことも、この映画の創作には活かされている。
「これまでフィクションの世界では、女性のセックスや欲望はほとんど正しく描かれず、非現実的なまでに美化されてきました。だからこそ女性の経験を、しっかりと女性を軸にして描きたかった」
劇中にはシーラが男性とセックスをするシーンや、セプテンバーとジュライが性欲をあらわにする場面もある。しかし、ラベドは露骨でストレートな表現は徹底的に避けた。
「従来の映画が直接的に見せてきたものを隠し、逆にあまり見せてこなかった部分を見せることにしました。きわめて意識的かつ、政治的な判断です。映画におけるセクシュアリティについて、これまでとは異なる物語を提示することを目指しました」
『九月と七月の姉妹』は女性たちの物語だ。男性のキャラクターは「物語の脇役であり、道具のような存在」とさえ言い切る。ただし従来、「フィクションの世界では女性がそういう役割を担うことが多かった」とも。
「この映画では、長らく映画で描かれてこなかったような女性たちの居場所を作りたいと考えていました。何らかの問題を解決するために、男性が絶対に必要なわけではないと言いたかった。男性に対しては、女性として生きることを少しでも想像してもらえることを願っています」
ラベドは今後、俳優と監督の両方で活動を続ける意向だ。「映画は(他の芸術に比べると)とても歴史が浅い芸術形式。さらに深く掘り下げ、もっと変化していけるはず」と力を込めた。「映画は産業でありながら、挑戦と失敗が許されている分野。私自身もそのことに助けられています」
『九月と七月の姉妹』
9月5日(金) 渋谷ホワイトシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
STORY
生まれたのはわずか10カ月違い、一心同体のセプテンバーとジュライ。我の強い姉は妹を支配し、内気な妹はそれを受け入れ、互いのほかに誰も必要としないほど強い絆で結ばれている。しかし、2人が通うオックスフォードの学校でのいじめをきっかけに、姉妹はシングルマザーのシーラと共にアイルランドの海辺近くにある長年放置された亡父の家<セトルハウス>へと引っ越すことになる。新しい生活のなかで、セプテンバーとの関係が不可解なかたちで変化していることに気づきはじめるジュライ。ただの戯れだったはずの命令ゲームは緊張を増していき、外界と隔絶された家の中には不穏な気配が満ちていく……。
STAFF&CAST
監督・脚本:アリアン・ラベド/出演:ミア・サリア、パスカル・カン、ラキー・タクラー/原作:デイジー・ジョンソン『九月と七月の姉妹』(東京創元社刊)/2024年/アイルランド、イギリス、ドイツ/100分/配給・宣伝:SUNDAE/© Sackville Film and Television Productions Limited / MFP GmbH / CryBaby Limited, British Broadcasting Corporation, ZDF/arte 2024

