『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』で注目を集めるショーン・プライス・ウィリアムズ監督。映画修行時代を過ごしたニューヨークでの日々、そしてアメリカの映画界が抱える“問題点”を尋ねた。(全2回の後編/前編を読む)
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かつてKim’s Videoで働いていた
――ウィリアムズ監督はニューヨーク大学の近くにあった有名なビデオレンタル・ショップ、Kim’s Video*1で働いていたことがあると聞きました。
ショーン・プライス・ウィリアムズ監督(以下、ウィリアムズ監督) 実は今「あなたはKim’sに行ったことある?」って聞こうと思っていたんですよ!
――はい、行ったことがあります。あそこで学んだことがやっぱり生きていますか?
ウィリアムズ監督 もちろん。まさに大学を中退してKim’s Videoで働いていたので、あそこが自分の映画の教室というか、学びの場でしたよね。脚本家のニックはKim’sの支店の方でバイトしてたんですよ。僕自身、あの店を通して知り合ったクレイジーな映画仲間から派生して、映画の仕事をするようになったんです。当時は時給が6ドルだったし、あの店の本当の価値というか、意味もわからなかったんですけれどね。
インディーズ映画界の英雄的な出来事
――監督と同様に、ニューヨークのインディーズ映画界の一人である、ショーン・ベイカー監督の『ANORA アノーラ』が今、アカデミー賞候補(のちに受賞)に入っています。そのことはどう思いますか?
ウィリアムズ監督 実はそれについてよく考えるんですよね。アカデミー賞の価値そのものを疑う部分があります。例えば、ジョン・フォードは何度もノミネートされても実際に会場には行かなかった。だから、実際こういったニューヨークのインディペンデント系の作品がノミネートされたところで、ちょっと外れ物というか、そこにしっくり来ないんじゃないかなと。懐疑的ではあるんです。でも彼がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した時は、涙が出たんですよ、嬉しくて。カンヌでの受賞はとてもしっくりきた。ニューヨーク・インディペンデント映画にとって英雄的な、これは記念碑的な出来事だと思ったんですが。
――あの時、私もカンヌにいてとても感激しました。これでインディーズ映画界がまた盛り上がるのかなと期待してしまったのですが。
ウィリアムズ監督 僕の同世代でインディペンデント映画を作っていた人たちは、今は大きな予算で撮っているから、もうニューヨーク・インディペンデントとは名乗れない。例えばA24だって今やスタジオと化しています。ただ、中には若手で本当にインディーズとして撮っている人もいます。でも、映画を見せる場がないんですよね。結局アカデミー賞だって、会社がついて色々とキャンペーンをして選ばれるわけです。それを考えるとインディーズ映画を見せる劇場、あと配給する会社がどれだけあるか。