『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』の主人公は、18歳の高校生リリアン。修学旅行で首都ワシントンD.C.に出かけたところ銃乱射事件に巻き込まれるも、鏡の裏にあった秘密の扉から脱出し、活動家アーティストや、甘々なネオナチ男などと出会い、数奇な旅を繰り広げていく。
監督は、撮影監督としてサフディ兄弟の『グッド・タイム』や、福永壮志(たけし)らの作品を手がけてきたショーン・プライス・ウィリアムズ。初監督作である本作は、カンヌ映画祭監督週間に選ばれ、その歴史観とユーモアとロマンティシズムで大きな注目を集めた。1977年生まれのウィリアムズは、『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー同様、ニューヨークのインディペンデント映画界を牽引してきた存在。トランプ政権下に戻った現在のアメリカ、そして映画界への想いなどを聞いた。(全2回の前編/続きを読む)
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福永監督との出会い
――この映画を観たのは、福永壮志監督に薦められたのがきっかけでした。ウィリアムズ監督は、福永監督の作品『アイヌモシリ』で撮影監督をされていますね。お二人はどのように知り合ったのですか? 福永監督は、あなたは良い人だけどクレイジーだよって言ってました(笑)。
ショーン・プライス・ウィリアムズ監督(以下、ウィリアムズ監督) 壮志は僕のことをよく知っているからね(笑)。彼はプロデューサーのエリック・ニアリが紹介してくれたんです。エリックは日本でも壮志の映画をはじめ、いろいろな映画を製作していますが(伊藤詩織監督『Black Box Diaries』など)、もともと彼の父親が映画修復の会社をニューヨークでしていて、そこで壮志を僕に紹介してくれたのが最初でした。しばらく経って、『アイヌモシリ』の撮影を担当することになったんだけど、その理由としてはアイヌは先住民ということで、日本人とはまた別のアイデンティティだから、撮影に外国人の視点が入るのはよりいいのではないか、ということでした。
『スイート・イースト』制作のきっかけ
――『スイート・イースト』が生まれたきっかけは、トランプ大統領の前回の政権時だったそうですね。詳しく教えてください。
ウィリアムズ監督 この映画の中にトランプの名前は一切入れていませんが、それは意図的にそうしました。最初のアイディアではトランプの前回の大統領就任式(2017年)を撮って、映画の出だしにしようという計画があったんです。実を言えば、1968年に実際に起きた大規模なデモに重ねてみようとも考えていました。当時、そのデモを撮って使っていた映画があったんです。結局、僕たちは準備が間に合わず撮影しなかったんですが。