大きなデモが起きなかった背景
――1968年のデモを捉えたその映画というのはなんですか?
ウィリアムズ監督 『アメリカを斬る』*1(1969)という映画ですね。この時のデモはとても大規模で結果的に暴動に発展してしまったんですが、アメリカの民主主義や抗議活動を象徴する出来事でした。でも今やもう様相が変わってしまった。
実際、2001年の共和党のジョージ・W・ブッシュの大統領就任式(筆者注:史上最大の接戦と言われ、一般投票では民主党のアル・ゴアが勝利していたが、選挙人投票で僅差でブッシュが逆転。論争を呼んだ)の時には、彼の就任に抗議する大きなデモがあって、僕はそれに参加しつつ、16ミリのカメラを回していたんですね。その時も国旗を燃やしたり警察が来て捕まる人がいたり、いろんな人がいたんです。その23歳の僕が経験したものが2017年にもまた起きるかと思ったんですが、そこまでのものは起きなかったんですよ。
――今年のトランプの就任式でも、大きなデモは起きなかったですね。
ウィリアムズ監督 その通り。みんなが滅入るような出来事が続いてしまったのも原因かと思いますね。例えば天災も起きたし、飛行機事故も続いた。それに今期のトランプ大統領に関しては、正当に勝利をしたわけですから、人々がどうなるか見守ろうっていうところはあると思います。ただ、本当に甘んじてトランプを受け入れているようになったのではない、と願いたいですが。
どの時代にも共通する“アメリカの10代”の姿
――この映画は実際にはバイデン政権時の2022年に撮影されたわけですね。
ウィリアムズ監督 そうです。実はトランプの第2次政権になってからインタビューを受けるのは、これが初めてです。今はちょっと感覚が異なる部分があって、僕の感情にも変化があるのかもしれない。トランプ1期目に書いた話を、バイデン政権時に撮って、トランプ2期目に振り返っているわけですから。ただこれは、確かにバイデン政権下で作った映画ではありますが、18歳の主人公の視点で考えると、大統領が誰かっていうのはそんなに懸念事項ではないと思うんですね。
映画には2018って書かれたシャツが出てはきますが、映画の中において撮影時が2022年という特定はしたくなかったんです。それはトランプの名前を出したくなかったのと同様に、コロナ禍だったということにあえて触れたくなかった。ある意味、少し時代を曖昧にしたかったっていうことがありますね。主人公は18歳で、僕とも脚本家とも世代が違うけれど、どの時代でもアメリカの10代というのは色々と跳ね返す力があって、インスピレーションを持って進んでいく部分があるんです。僕も18歳だった1995年に、生まれて初めてニューヨークに行ったんですよ。
同時に、脚本のニック・ピンカートンは今の若者が立たされてる苦境というのを理解しています。それは世界的に共通の問題です。今のティーンエイジャーが60歳になるまでには、地球温暖化でもしかしたら全部の氷河が溶けて、人類は溺れてしまうかもしれない。そういう感覚が今の人にはあるわけですよね。

