リリアンの恐れ知らずの冒険

――その中でリリアンだけが何も怖がっていない。

ウィリアムズ監督 まさにそうなんです。実際、この映画が監督第1作ということで、僕自身がちょっとリリアンに対して恐れをなしていたんです。ナーバスになっていたんですね。だけどリリアンを演じたタリア・ライダーは、僕以上にリリアンのことを分かってくれていた。タリア自身が、怖いもの無しの存在だったんです。

 

――彼女はリリアンそのものだったんですね。この映画の面白さはリリアンの冒険を通して、アメリカの歴史と映画史も同時に辿っていこうという意図が感じられるところにもありますね。

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ウィリアムズ監督 ハリウッドも、カリフォルニアも、この映画には出てきません。リリアンのロードトリップはアメリカ北東部に特化しています。それはアメリカ建国の地であることはもちろんですし、D・W・グリフィスという、アメリカ初のインディペンデントの映画作家が誕生した場所とも言えます。ニューヨーク、ニュージャージーといった場所は他にも、エディソンをはじめとした歴史的な人物も生んでいるんですよ。ワシントンD.C.、フィラデルフィア、ボルチモアという僕自身が育った場所を辿ってはいますが、それは従来のアメリカ映画のロードムービーが西へ向かうのに対抗して、違うものにしたかったという意図もあります。限定的ではあるけれど、アメリカの歴史を見せたかった。同時に脚本家のニックがとても歴史好きであり、映画史おたくでもあるので、とても細部にこだわりました。ニックはある意味とても愛国者なんです。実はグリフィスの映画については現在ではとても問題視されていて、なかなか観る機会もありません*2。けれども映画史の中では非常に価値があるということもあり、盛り込みました。

 

1*『天国の日々』、『カッコーの巣の上で』などの撮影監督として有名なハスケル・ウェクスラーの監督作。原題 Medium Cool。ドキュメンタリータッチの映画で、1968年のシカゴでの民主党全国大会会場で起きた抗議デモが登場する

2*南北戦争を背景に描いたグリフィスの代表作『國民の創生』は1915年当時としては画期的だったフラッシュバックなどの映画技術を駆使した、アメリカ映画初の長編。映画史において重要な位置を占める一方で、白人至上主義による人種差別が強く選民思想団体KKKを英雄的に描いているため、現在では取扱注意作品となっている。主演はリリアン・ギッシュ

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