青春、欲望、共依存。映画『九月と七月の姉妹』は、とある姉妹の壊れそうなほど脆い時間と関係性を、ホラー映画さながらの不穏な演出と緻密な構造で描いた一作だ。
わずか10カ月違いの姉妹であるセプテンバーとジュライは、周囲から虐げられながらも強い絆で結ばれている。ところが、ある日起こった事件をきっかけに、母娘3人は郊外へ引っ越すことになった。そのとき、すでに姉妹の関係はいびつに変化しはじめており……。
監督は、本作が長編デビュー作のフランス人女優アリアン・ラベド。公私ともにパートナーであるヨルゴス・ランティモス監督の作品をはじめ、『ブルータリスト』など数々の映画に出演。本作では、その高い演出力と作家性がカンヌ国際映画祭ほか世界各国の映画祭で高く評価された。
姉妹の姿から浮かび上がるものは、二度と戻らない青春の時間と、日常生活の豊かなディテール、そしてときに残酷な人間の本質。思いがけないラストシーンまで観客を誘ってゆく、魅惑的なストーリーテリングの秘密をラベド監督に聞いた。
愛ゆえに娘たちを縛り、痛めつける母親
原作は、史上最年少でブッカー賞候補となった作家デイジー・ジョンソンの小説『九月と七月の姉妹』(原題『Sisters』)。2020年のシャーリイ・ジャクスン賞で長編部門候補に選出されたほか、ニューヨーク・タイムズ紙では「2020年の百冊」に選ばれた。
この小説を読んだとき、ラベドは「姉妹の関係性と、ティーンエイジャーの姿を深く掘り下げている点に強く惹かれた」という。
「怒れる少女が心を閉ざして不良になる……というありきたりなものではなく、10代の少女のありようを複雑にとらえつつ、家族からの無償の愛に秘められた危険性を描いた小説です。日常の細部を丁寧に見つめる視線にも、超自然的な要素を取り入れた物語にも興奮しました」
映画化にあたっては、原作者のジョンソンから「好きなように翻案していい」と許諾を得た。セプテンバー&ジュライの姉妹と、2人の母親シーラのそれぞれに自らを投影し、「より個人的な映画」として本作を完成させたという。
15歳のジュライは学校でいじめられており、自分の居場所がないと感じている。セプテンバーは妹を守ろうとするが、やたらと大胆で攻撃的な姿勢をとる。ラベドは「どちらの気持ちもよくわかります。できるだけ多くの観客に共感してほしい」と願いを語った。
姉妹と母親は互いを思いやりながら、同時に傷つけ合ってもいる。セプテンバーはジュライを心配しつつも、つねに“ダメな妹”として接する。シーラは娘2人を心から愛しているが、その愛情ゆえに彼女たちを縛り、そして痛めつけるのだ。
「人間の“矛盾”に興味があります」とラベドは話す。「シーラは悪い母親でもなければ、親切で優しい母親でもない。落ち込んで動けないときも、狂ったように踊るときもある。そういった矛盾した行動や反応が、登場人物をより人間らしく、真実味のある存在にするのです」


