少年時代に似た発言を…ライバル同士の“意外な共通点”
「子どもとは将棋を指したくない」
これをまだ子どもの伊藤少年が言ったのだとか。たしかに天才少年だから、同世代では敵なしだったのだろう。ん? こちら側も似た話があるぞ。かつて幼い藤井少年はこう言ったはず。
「僕も早くおじいちゃんになりたい」
そうすれば、強い大人に交じって将棋が指せるから。表現は違うが意味することは同じである。
師匠同士の付き合いも
初の栄冠に輝いた伊藤新叡王、以前に師匠と「名人、竜王を取ったら賞金は師匠と折半」と約束をしたのだとか。例えるなら社会人になった息子が初任給の半分を親に渡すようなものか。素晴らしい話だ。
しかしそれを記者会見の場で聞かれ、伊藤叡王は大長考していた。
(師匠に賞金を渡す?)
「……師匠と相談します」
まあ公の場では言えないよね。でも普段あまり表情を変えない伊藤叡王が、師匠の話になると何とも言えない笑みを浮かべていたのが印象的だった。
実は私は20代の頃、宮田八段にはずいぶんとお世話になった。自分の東京対局の際は、翌日に食事をご馳走になったことも何度かある。年齢は16歳私が下だが、本当に親しみやすい先輩だった。
私は先輩の懐に飛び込むタイプではないが、当時から宮田八段には親近感があった。なぜだろう……当時を振り返る。そう、思い出した! 宮田八段は我が師匠、板谷進九段と雰囲気が少し似ているのだ。
あのべらんめえ口調、昭和の親父の風情、ぶっきらぼうなようで愛情ある物言い……ああ、板谷先生もこうだったなあ。
弟子と師匠に利害関係は無い。弟子がどんなに活躍しても師匠には目に見えるメリットなどない。それでも弟子の活躍は手放しで嬉しい。それは師弟だから。それ以外の理由は無い。
今は「タイトル保持者の師匠」の喜びを、反対側から眺めて懐かしむ私である。




