将棋界を牽引する若き天才、藤井聡太七冠。その師匠である杉本昌隆八段が、“最強すぎる弟子”のエピソードをはじめ、楽しくトホホな日常を「週刊文春」で綴った大人気エッセイ集の第2弾『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』(文藝春秋)。
その中の一篇「竜王戦ドリーム」(2023年11月2日号)を転載する。
(段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)
◆◆◆
「私の方が1歳年上」藤井竜王の年齢マウント
勝負というものにおいては、いざ始まってしまえば相手の年齢など全く気にならない。父親のように年上だろうと、息子のように若かろうと目の前の勝負に全力を尽くすのみである。
だが、ふと相手の年齢を意識してしまうときがある。相手が同学年だった場合だ。
藤井聡太竜王と伊藤匠七段の竜王戦七番勝負がまさにそれ。2人は共に2002年生まれの21歳、つまり同学年対決なのだ。
小学生の頃からライバル関係の2人。第1局前日の前夜祭の挨拶で藤井竜王は笑顔でこう言った。
「私の方が1歳年上なんですけど……」
藤井竜王の方が誕生日は3カ月ほど早い。この時点で20歳だった伊藤七段にささやかにマウントを取り、兄貴風を吹かせて(?)笑いを取る藤井竜王であった。
現在、兄貴の貫禄を見せて藤井竜王の2連勝中。伊藤七段の巻き返しに期待したい。今回に限らず、この2人はここから幾度となくタイトル戦で当たるはず。
竜王戦のシステムは、最上位の1組から6組までそれぞれトーナメント戦があり、各クラスの代表者11名が本戦入りして新たにトーナメントを戦う。
クラスの昇級は年に1つずつだが、挑戦者になった場合は別。伊藤七段は今回5組優勝だが、来期は竜王もしくは1組への昇級が確定している(七番勝負の敗者は1組からスタートするため)。これも大躍進である。




