藤井聡太が師匠に“思わず謝罪”…その理由とは?

 竜王は棋界最高峰で序列1位の棋戦。優勝賞金4400万円は全ての棋士の夢である。歴史ある名人戦と合わせ、2大タイトルと言われる所以でもあるのだ。

 棋士の数だけ竜王戦ドリームはある。私は2020年に3組ランキング戦の決勝まで進出したことがある。

 そのときは久しぶりの2組昇級を決め、なおかつ約20年ぶりの優勝のチャンスだった。先には竜王まで見えている。しかし決勝戦で藤井七段(当時)に負かされ、夢が潰えたのだ。

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「師匠に勝って優勝したんだから、代わりに本戦でも大暴れしてくれ」

 悔しさを隠し、師匠風を吹かせて、こんなことを言った記憶がある。

 さて、現在竜王の藤井八冠。私の願い通り勝ち抜いたのかと言えば……実はこの年度は本戦1回戦で敗退してしまったのだ。

『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』 (杉本昌隆 著)

 勿論本戦は強敵ぞろいなので負けても仕方ないが、ここは理屈でなく勝ち抜いてほしかったなあ。その後に会ったときの会話。

「藤井君、この前の竜王戦は……」

「ああ。すみません!」

 将棋の内容を聞こうとしただけだったが、なぜか謝られてしまった。

二歩下がって一歩進んだと思えば…

 その1年後に竜王を獲得してめでたしめでたし……いや、一棋士・杉本からすると全然めでたくないぞ。まあ、師匠としてはめでたいから良しとするか。

 三歩進んで二歩下がるのは三百六十五歩のマーチ。竜王戦は上がりやすくて落ちやすい棋戦とも言われ、私は2組に昇級した2年後に4組まで降級、一歩進んで二歩下がった。

 一見後退だが、別の角度から捉えれば……やっぱり後退である。だが、二歩下がって一歩進んだと思えば取り戻しているではないか! 物は考えようなのだ。

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