将棋界を牽引する若き天才、藤井聡太七冠。その師匠である杉本昌隆八段が、“最強すぎる弟子”のエピソードをはじめ、楽しくトホホな日常を「週刊文春」で綴った大人気エッセイ集の第2弾『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』(文藝春秋)。
その中の一篇「棋士のお金事情」(2024年3月14日号)を転載する。
(段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)
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棋士は自分で確定申告を行い、税金も納める
確定申告の時期である。2023年10月から導入されたインボイス制度もあり、今年は戸惑う方が多かったと聞く。私もその1人だ。
将棋界では2月に前年の棋士の獲得賞金、対局料ベストテンが発表される。
昨年のトップは藤井聡太竜王・名人の1億8634万円。これを多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれるが、全冠制覇の八冠だし、これぐらいはあって良い気がする。
第10位の棋士で約1700万円。棋士は好きなことを仕事にしており、総じて恵まれた職業と思う。
ちなみに私は30代の前半の棋戦準優勝によりその年だけ収入が倍増、ベストテンを狙える位置に付けたことがある。だが翌年は途中で負けたので当然のように圏外。やはり1年1年が勝負の世界なのだ。
さて、棋士は公益社団法人日本将棋連盟に所属している正会員だが、個人事業主でもある。自分で確定申告を行い、税金も納める。
まだ棋士という職業が一般的でない頃はこう聞かれることもあった。
「棋士が勝てば収入になるのは分かります。では負けるとお金を払うのですか?」
いや、それでは職業でなく賭け事だ。




