棋士の給料はどこから出ている?

 棋士は本当に一部の人しか生活できない。そう思われた時代もあった。私が20代四段の頃、年長のある人に言われた。

「あなたも今は若くて独り者だから良いけど、将来どうするの? 将棋ばっかり指してたら家族養っていけないでしょう?」

 とてつもなく大きなお世話だが、親身な意見でもあった。あの人に今の将棋界や藤井八冠の活躍を見せたいものだ。

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 棋士の義務の一つは公式戦に出場すること。一局指すごとに将棋連盟から「対局料」が支払われる。

 公式戦には主催社、つまりスポンサーが付いており、これが対局料の原資になる。棋戦主催社の多くは新聞社であり、将棋連盟が主催社と契約することにより、私たちは将棋を職業にできるのだ。

 給料制ではないが、順位戦のクラスと竜王戦を始めとした各棋戦の成績に応じた「参稼報償金」が毎月支払われる。これが私たちの給料に該当する。

 収入を増やすも減らすも自分次第。やはり棋士は勝ってこそ幸せを掴める職業である。

1年目がピークもあり得るので、貯金もしっかりしないと厳しい

 一般的な会社では、同期の新入社員なら給料にも大きな差は出ないだろう。だが棋士はその活躍度によって収入もまるで違う。

 例えば公式戦は勝ち負けに関係なく対局料が貰えるが、多くの棋戦はトーナメントなので、1回戦で負けたらそこで終わり。勝者は2回戦、3回戦と続くので、ここで収入に大きな差が付くのだ。

『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』 (杉本昌隆 著)

 今は企業もそうなりつつあると聞くが、将棋界の勤続年数と収入は比例しない。私が20代の新人の頃、先輩棋士に言われた。

「棋士は、若い頃は同世代のサラリーマンより収入が多い。でも福利厚生が期待できないし、身体を壊したら収入がガクンと減る。1年目がピークもあり得るので、若い頃から活躍して貯金もしっかりしないと厳しい」

 この考えは今でも通用する。あの頃はピンとこなかったがその通りだった。あの時代に戻って自分に説教したい気分にもなるのだ。

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