将棋界を牽引する若き天才、藤井聡太七冠。その師匠である杉本昌隆八段が、“最強すぎる弟子”のエピソードをはじめ、楽しくトホホな日常を「週刊文春」で綴った大人気エッセイ集の第2弾『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』(文藝春秋)。

 その中の一篇「招かれざる客」(2023年10月12日号)を転載する。

藤井聡太の師匠・杉本昌隆八段 ©︎文藝春秋

(段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)

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関係者全員が凍り付いた男の子の一言

 招かれざる客。映画のタイトルとして有名な言葉だが、一般的には迷惑な客、呼んでいない客、などの意味で使われる。

 人は、まったく悪意がなくても招かれざる存在になってしまうことがある。

 それは今から6年ほど前で、藤井聡太七冠がまだ中学生の頃。私が出演した将棋イベントでのことだ。

 関係者5人程で談笑していると、小学生低学年ぐらいの男の子が駆け寄ってきた。

「杉本先生、今日は藤井君来ないの?」

まだ学生だった頃の藤井聡太七冠(2018年2月) ©︎文藝春秋

 子どもの目には、中学生棋士が身近なお兄ちゃんのように映るのだろう。可愛いものだな。私は答えた。

「藤井君は家で将棋の研究をしているのだよ」

「なーんだ」

 しかし、これに続く男の子の一言が余計だった。

「つまんないの」

 そう呟いて男の子は走り去る。和気あいあいとした現場の空気が一変する。

(少年、何てことを!)

 会場にいた関係者全員が凍り付いた。

 つまらない、藤井君がいないとつまらない、杉本先生はつまらない……その言葉は増幅して皆の心に響き渡り、場がしばらくギクシャクしたのだった。