「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」で描かれたシャア・アズナブルは、「ファーストガンダム」のシャアよりもシャアらしかった——。サブカル評論や戦史報道で知られる朝日新聞記者の太田啓之氏が、最新ガンダム論を語り尽くす。ガンダム世界に刻まれた絶望のループを断ち切る“真のニュータイプ”とは何か。「GQuuuuuuX」を読み解く視点を提起する。

 

太平洋戦争の山本五十六は、シャアを彷彿とさせるものがあると太田氏はいう。「GQuuuuuuX」が描いた世界を、実際の戦史に照らし合わせると見えてくる深意とは——。

◆◆◆

不徹底なものに終わった真珠湾攻撃

 現実に行われた真珠湾攻撃作戦は山本の意図に反して極めて不徹底なものに終わった。戦艦4隻を含む6隻の米軍艦艇を撃沈し、航空機多数を撃墜・破壊する戦果を挙げたものの、敵空母は取り逃がした。味方の損失は極めて少なかったのになぜか第二次攻撃は行われず、真珠湾の海軍施設やオアフ島に無数に設置された重油タンク群は無傷のまま残った。

 元海軍軍人の歴史家・野村實(1922―2001)は著書「山本五十六再考」で、「山本は、連合艦隊司令長官として、現地で作戦を指揮する手段を考えるべき筋合いであった」「日本海軍は当然、山本が現地でこの重大な作戦を指揮し、国家に対する責任を果たすよう措置しなければならないところだった」と指摘する。

ADVERTISEMENT

大阪・関西万博に展示された実物大のガンダム立像。「ファースト」では主人公のアムロ・レイがガンダムに搭乗するが、「GQuuuuuuX」ではシャア・アズナブルが奪取した ©CFoto/時事通信フォト

 そして、山本が空母「赤城」の艦上で作戦を指揮していたならば、「山本が、第二撃決行をすぐに命令するであろうことには、いささかの疑念もおきない」としている。野村はさらに、山本の指揮下で米空母を撃沈した可能性があること、真珠湾攻撃後はミッドウェイ島へと突き進み、米軍の前線基地を徹底破壊したであろうことなどを予想し、「山本指揮によるハワイ作戦は、現実の歴史よりもかなり有利な太平洋戦争の経過を、日本にもたらしたはずだ」と結論づけている。今日に至るまで日本海軍史研究の第一人者とされる野村があえて「if」を語る意味は重い。歴史家らしく慎重な表現だが、彼はここで「山本が真珠湾攻撃を指揮していれば、対米戦争で日本が勝利していた可能性もある」と語っているに等しいのだ。