サブカル評論や戦史報道で知られる朝日新聞記者の太田啓之氏が、最新ガンダム論を語り尽くす。ガンダム世界に刻まれた絶望のループを断ち切る“真のニュータイプ”とは何か。「GQuuuuuuX」を読み解く視点を提起する。

ファーストの〈if〉世界

「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」のテレビ放送が終了して2カ月あまり。いまだに喪失感にさいなまれている人は少なくないのではないか。「ジークアクス」で描かれたのは、ジオン独立戦争(一年戦争)が地球連邦ではなくジオン公国の勝利で終わった後の世界。「太平洋戦争で日本が米国に勝利する、あるいは互角に戦う」などの「架空戦記もの」に近い設定と言えるだろう。しかし、ファーストガンダムに魂をわしづかみにされた私たち昭和ガンダム世代にとって、「ジークアクス」は「if」の世界で遊ぶ以上の強烈なインパクトを与えたと思う。なぜなら、「ジークアクス」において描かれたシャア・アズナブルは、「ファーストガンダムのシャアよりもシャアらしかった」からだ。

『機動戦士ガンダム』の原作者・富野由悠季氏は、シャアへの特別な思い入れを過去のインタビューで語っていた ©文藝春秋

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 ファーストガンダム冒頭では、ジオン公国軍の若き少佐・シャアが辺境のスペース・コロニー「サイド7」で展開中の連邦軍モビルスーツ開発計画「V作戦」をキャッチする。シャアは母艦・ムサイから部下の乗るザク3機をサイド7に侵入させるが、民間人の少年アムロ・レイが乗り込んだ連邦軍の試作モビルスーツ「RX-78-2ガンダム」に2機を撃破されてしまう。部下を返り討ちされたシャアはムサイのブリッジに立ち、独りこうつぶやく。「認めたくないものだな。自らの若さ故の過ちというものを――」。