日本のアニメには、「戦争」を考える上で決定的に欠けているものがある――。東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏、防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏、朝日新聞記者の太田啓之氏の対談「ガンダムが描いた戦争の『虚と実』」から一部紹介します。
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アニオタと軍事オタクは重なる
太田 ところでお二人は、子供の頃からアニメや特撮がお好きだったわけですよね。それと現在のお仕事とに、結びつきはあるんですか?
高橋 全くないです。頭の中で違う領域を使っていますから(笑)。
小泉 今の仕事じゃなかったら、何をやってました?
高橋 新聞記者かな。
太田 そうなんですか。同業だ。
小泉 僕はミリタリーオタクとして“中二病”が治らないまま、軍事評論家になってしまったところがあるんです。僕はまっすぐ今の仕事に結びついているかもしれない。
太田 面白いですね。僕はずっとアニメ好きと軍事オタクは重なる部分があるなと思っていたんです。
高橋 それは間違いない。
小泉 ミリタリーとアニメの中のメカって、われわれ日本人からすると、両方とも現実からは遠い世界のように感じるじゃないですか。少なくとも子供時代の僕にはあまり区別がついてなかった。現実の兵器をどこか遠い世界にあるスーパーメカのように感じていた気がします。
僕が軍艦のプラモデルを作り始めたのは小学4年生でした。初めて作ったのは、重巡「那智」。プラモデル屋で一番カッコよかったヤツでした。だから僕、軍事オタクになった瞬間がハッキリしているんですよ。
太田 平賀譲造船中将設計の!
高橋 条約の制限内で性能を極限まで追求した「条約型重巡」の機能美に惹かれた瞬間ですね。
小泉 そうしたら、最終的にあの人が総長をやった大学の教員になっちゃった(笑)。
太田 僕は1964年生まれで、僕よりちょっと上の世代の人は漫画雑誌で戦艦「大和」とか、零戦の特集に親しんでいたと思います。
小泉 昔の少年誌ですね。
太田 そう。戦記ブームの時代というのがあったんです。その後に松本零士の「戦場まんがシリーズ」が流行って、僕ももろに影響を受けました。小泉さんと同じくミリタリーのプラモデルの影響も大きくて、アニメからこの世界に入ったわけじゃないんです(笑)。