「映像の作り手である自分がこんなに本を書くことになるとは想像しませんでした。本を書くのは、つらいのですが、その過程で必ず新しい発見があります。書き終えると取材の成果を出し切った、という充実感が湧いてきます」
NHKエデュケーショナルのディレクター佐々木健一さんが、4冊目の著書『雪(そそ)ぐ人 えん罪弁護士 今村核』(NHK出版)を6月に上梓した。2016年に企画・制作したNHKの番組『ブレイブ 勇敢なる者「えん罪弁護士」』を元に書き下ろしたノンフィクション作品だ。主人公は今村核氏。有罪率99.9%の日本の刑事裁判で、これまで14件の無罪判決を勝ち取った弁護士だ。法曹界では、刑事裁判の無罪は「一生で1件取れるかどうか」と言われている。
佐々木さんは本書で今村氏がどのように無罪判決を勝ち取ったのかを丹念に描くとともに「なぜ、えん罪弁護を続けるのですか?」という問いを執拗に今村氏にぶつける。
「えん罪弁護は勝てる可能性が極めて低い上に多額の報酬を得られるわけでもありません。無罪を勝ち取ったとしても、被告にとっては、やっていないことを証明できただけで、結果的には多くの時間やお金だけでなく、ときには人間関係を失うこともあり、感謝されるとは限りません。本当に報われない仕事なんです。それで“なぜ?”を掘り下げていくことになりました」
その答えは今村氏の人生に隠されていた……。「人はいかに生きるべきか」を読者に深く考えさせる1冊だ。