5/5ページ目
この記事を1ページ目から読む
これに対して、「あんぱん」第29回では、豪の出征前夜、母・羽多子(江口のりこ)が蘭子に着替えを渡すと「豪ちゃん明日行ってしまうがで。今夜はもんて(戻って)こんでええ」と伝え「豪ちゃん、蘭子をよろしゅうお願いします」と頭を下げた。のぶと羽多子に見送られ、蘭子と豪は共に歩き始める。そのまま2人で汽車に乗り、蘭子はそっと豪の肩にもたれかかった。戦争で引き裂かれる若い恋人たちに最後の一夜を過ごすことを大人たちが黙認し、むしろ後押しする構図は、まさに『あ・うん』のシーンと同じである。
中園ミホが「あんぱん」に込めたもの
ちなみに、1989年には高倉健主演、降旗康男監督により『あ・うん』が映画化された。17年ぶりに銀幕復帰した富司純子(旧芸名・藤純子)や板東英二が脇を固め上品で感動的で温かい作品に仕上がっていると評された。
蘭子が向田邦子をモデルとしているかどうかは、現時点では制作サイドから明言されていない。それでも、映画雑誌での交流、『父の詫び状』での協働、戦時下の別れのシーン──これらの要素は、やなせたかしと向田邦子の実際の交流、そして中園ミホが向田から受けた影響を考えると、偶然とは思えない符合だ。朝ドラ「あんぱん」の蘭子というキャラクターに、その記憶が投影されているとしたら、それは中園ミホによる二人の創作者へのオマージュなのかもしれない。
田幸 和歌子(たこう・わかこ)
ライター
1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など
ライター
1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など
