「第1書記」が、ジュエ氏の摂政役として差配することになる

 もし、ジュエ氏が最高指導者としての地歩を固める前に金正恩氏が倒れたらどうなるのか。その場合、2021年1月の党大会で新設した「第1書記」が、ジュエ氏の摂政役として差配することになるだろう。「第1書記」の設置自体、「金正恩氏が倒れても、ジュエ氏が最高指導者になるまでは、他の何人も最高指導者の座に就くことはできない」というメッセージでもある。第1書記に就くのは、金与正氏以外にはいないだろう。

金正恩氏の後方から妹の金与正・党副部長が歩いてくるのが映像からわかる(朝鮮中央テレビの記録映像より)

 だが、本当に金与正氏はジュエ氏を補佐するだろうか。訪中の記録映像を見ると、ジュエ氏の行動の面倒をみていたのは、金正恩氏の秘書役でもある玄松月氏だった。これまでと同様、金与正氏とジュエ氏がお互いに近づいたり、言葉を交わしたりする場面はなかった。

 金正恩氏と金与正氏は強い愛情で結ばれているとされるが、金与正氏も公職に就いている以上、大勢の部下がいる。金正恩氏がもし不在になれば、部下たちは色めき立ち、金与正氏を次の後継者に据えようとするだろう。その方が自分たちも立身出世できるからだ。

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 ジュエ氏が父の訪中に同行したのは、「中国側へのお披露目」が目的ではなく、北朝鮮高位層に権力の序列をはっきり認識させ、市民たちの間に「次の後継者はジュエ氏」という意識を植え付けることに狙いがあったと言えるだろう。

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