8月20日の朝鮮中央通信報道。北朝鮮の動静をウオッチしている関係者の視線が一斉に集中する記事が配信された。題名は、「金与正朝鮮労働党中央委員会副部長、わが国家に対するソウル当局の欺瞞的な『融和攻勢』の試みの本質を辛辣に批判」。
関係者の一人は「これは金与正が、北朝鮮の外交政策を担当する地位に復帰したことを意味する」と語る。一体どういうことなのか。
各国のエキスパートが注目したのは、金与正氏の発言内容ではない。その形式だった。同通信は「(金与正氏は)朝鮮外務省の主要局長との協議会で(中略)批判し、国家首班の対外政策構想を伝達して手配した」と伝えた。
「形式的な序列を飛び越えた扱い」外交政策を担当する地位に復帰
与正氏は2018年から2019年にかけての米朝・南北両外交で華々しく活躍した。18年2月には北朝鮮代表団の一人として訪韓した。米朝外交では事前の実務協議を指揮したほか、18年6月の米朝首脳会談などで実兄の金正恩総書記のそばでペンを差し出すなど、かいがいしく働いた。だが、19年2月にハノイで行われた米朝首脳会談が決裂した後、連帯責任として一時期、党政治局員候補から降格処分になったこともあった。
ところが、最近は明らかに金与正氏の力が増している。金正恩氏の公式活動では、名前こそほとんど出てこないが、同時に配信される写真に写り込む姿が激増。その数は、今年1年間だけでも60枚以上にのぼる。
昨年9月11日、金正恩氏が北朝鮮軍特殊作戦武力訓練基地を訪れた際に公開された写真には、愛用しているスカート姿ではなく、スポーティーな服装で兵士たちの訓練を凝視する金与正氏の姿が写っていた。視察した兵士たちは後に、ロシアに派遣されたとみられており、金与正氏が国家の重要な決定の場に立ち会っている証左にもなった。
さらに、日米韓の関係者の1人は「党副部長である金与正氏が、党幹部が出席する会議の中央ひな壇に座っていたこともある。明らかに形式的な序列を飛び越えた扱いだ」と話す。

