結婚を機に小学校教員を辞め、夫と上京した専業主婦の美穂(34)。妊娠を想定しての決断だったが、1年経っても一向に子供ができる気配はない。次第に不安は募っていく。

「もしかして私たち、不妊症なんじゃ……」

私が妊活ガチャ沼にハマって400万円を溶かした話』(北見雨氷著、コミックルーム)は、不妊治療を続けても妊娠できなかった美穂が、1回で約100万円と大金のかかる体外授精に行き着く、リアルな妊活の苦しみを描いたコミックエッセイだ。

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毎週していても一向に子供ができないことに、不安を抱く美穂(34)

 ここでは、作者の北見雨氷さんに作品について話を伺った。

不妊治療で浮き彫りになる夫婦の“温度差”

 子供ができない原因を明らかにしようと、病院に向かった美穂に突き付けられる現実は厳しい。なんと、夫婦揃って不妊症の因子を持っていると診断されてしまったのだ。落ち込む美穂だが、夫の瞬は深刻に受け止めない。妊娠に対するパートナー間の温度差が浮き彫りになるシーンだ。

「不妊治療は、令和の今でも人に打ち明けることをためらう方が多く、特に繊細な内容は限られた相手にしか話せないことがあります。治療を受ける方は孤立しやすいんです。まずはパートナーが寄り添う姿勢が何より大切です」(北見雨氷さん)

 ただでさえ不妊治療中は心身ともに苦しいことが多い。痛みを伴う検査を受けたり、治療の度に高額な医療費を支払ったりすることで、追い詰められるような気持ちを味わう。さらに、パートナーにまで理解のない言葉をかけられたら……。そんな不妊治療の実態はあまりにも世間に知られていない。

自身も不妊の因子があると診断されたにもかかわらず、気にしない夫・瞬との温度差に苦しむ美穂

「本作の第9話では、治療がうまくいかない中での夫婦の対話を描いています。重たい空気の中、夫の一言がふっと心を軽くする……。しんどい時だからこそ言葉に支えられることもあるんです。

 私は就職氷河期の影響で正職員になるのが遅れ、結婚も晩婚になりました。その結果として、不妊治療を選択せざるを得ませんでした。周囲にも同様の背景をもつ女性が少なくありません。少子化や婚姻減少について語る際には、こうした個々の背景にも目を向けていただけたらという思いでいます。

 また、正しい情報を知る必要があるのは治療を行う本人も同じです。治療中は不安から過度にネット検索してしまい、根拠の乏しい情報や高額な商材に触れる機会も増えます。追い詰められると何にでも頼りたくなるものですが、信頼できる医療機関からの情報や公的機関の情報を軸に、冷静に判断してほしいですね」(同上)