先を行く台湾・韓国

 マスク不足が顕在化した2020年2月、台湾では健康保険証と使い捨てマスクの購入歴が紐づけられた。1人当たりの購入枚数が制限され、買い占めによる更なる品不足を防いだ。また、政府が把握しているマスクの在庫データは30秒ごとにリアルタイムのオープンデータとして公開された。そのデータを基に民間の技術者らがマスクの在庫がある薬局の情報を地図上に表示できるアプリを開発し、市民のマスク購入を助けた。

伊藤由希子氏(本人提供)

 一方、日本では、政府が布製マスクを調達し、全戸に配布するという方針が同年4月1日に発表された。しかし、政策の実行には時間がかかり、配布が終了した頃にはすでに市中での使い捨てマスクの一般販売が回復し始めていた。結果的に調達した布マスクの3割は配布されず在庫となり処分された。政策の発表日にちなんで「エイプリルフールの冗談」と海外メディアから揶揄され、今も失策の象徴となっている。

 韓国では、感染初期の防疫体制としてPCR検査キットの製造にいち早く着手し、検査と陽性者の隔離、という感染症対策の定石を徹底させた。検査費用の医療保険の適用を即時に行い、1日あたりの検査数は日本のほぼ10倍のスピードであった。ドライブスルー方式やウォーキングスルー方式では、3分ほどで検査が終了し、医療機関外で大量検査が実施できるうえ、医療職への飛沫感染リスクも軽減された。感染者の移動履歴(疫学調査)についても電子情報が政府に一元化され、迅速な対応につながった。同時期の日本では、検査キットの不足や検査体制の規模の小ささから、検査が追いつかず、医療機関での混乱を招いた。2月末には政府が「全国一斉休校」を要請するなど、医療の不備により社会活動全体が制約されることになった。

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 台湾と韓国に共通するのは、第一に、日本ではいまだに真似のできないスピードで全国の情報を把握する効率性である。背景には、単に日本よりもDXを進めていたから、というだけではない保険制度の違いがある。第二に、有事における社会連帯を引き出す、制度の公平性である。政府は足りないマスクを平等に配布し、検査体制を拡充する。それに対し、市民も連帯的に行動して政策を支えた背景には社会保障制度の公平性に対する信頼が感じられる。

※本記事の全文(約10000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年10月号に掲載されています(伊藤由希子「国民皆保険 このままではもたない」)。全文では以下の内容をご覧いただけます。

・カギは一元化
・マイナンバーカードを活用せよ
・日本の利用者情報はツギハギ
・公共サービスメッシュ
・医療は過剰になりがち
・情報一元化のメリット
・日本は医療の効果検証が遅い

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