明らかに藤井七段を意識して…
当時の年齢は、藤井七段が16歳、佐々木七段は24歳、私は50歳。私は目下の敵の佐々木七段を意識していたが、佐々木七段は明らかに藤井七段を意識している様子だった。私の長考中には席を外し、別の相手と戦っている藤井七段の対局を見つめる佐々木七段の姿があった。
(キミの敵はこちらだよ)
時折、1人残された将棋盤の前でそう呟く私。本人の前で言えばドラマっぽくてカッコいいが、小心者だからそんなことはしない。
別の観点からすれば、弟子の藤井のおかげで強敵のマークがこちらからそれたとも言える。この2人と同じクラスで順位戦を戦えたことは私にとっても生涯の思い出である。
現代のライバルは、感想戦がいつまでも続くのが特徴。ABEMAの地域対抗戦準決勝ではチーム中部対チーム関東Aの対局者の立場で2人は激突。その将棋は藤井七冠の勝利で、チーム中部も決勝進出を決めた。
私が意気揚々とチーム中部の控室に戻ると、なぜか佐々木八段がおり、藤井七冠と話をしている。
「?」
チーム関東Aに不利益をもたらした我がチーム中部にお礼参りの報復か⁉ いや、もちろんそうではなく、直前まで指していた将棋の感想戦の続きを口頭でしていたのだ。勝負が終わればお互いの良いものを認め合うのがライバルである。
ABEMA地域対抗戦と言えば、私は佐々木八段から「チーム中部に入れませんかね」という類の冗談を言われたことがある。
え? そうすると藤井、豊島(将之九段)、佐々木で棋界最強の三本柱になっちゃうよ。そうか、師匠の石田九段は愛知県出身だから弟子の佐々木八段を指名しても良いのか!(ダメ)
嬉しい妄想を抱かせてくれた佐々木八段に感謝だ。
広い目で見れば、同門対決の今期竜王戦。第1局は藤井竜王が勝利したが七番勝負はこれから。目が離せない。
(本エッセイは2024年10月に掲載されたものです)



