将棋界を牽引する若き天才、藤井聡太七冠。その師匠である杉本昌隆八段が、“最強すぎる弟子”のエピソードをはじめ、楽しくトホホな日常を「週刊文春」で綴った大人気エッセイ集の第2弾『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』(文藝春秋)。
10月3日に開幕した第38期竜王戦七番勝負で、藤井七冠は佐々木勇気八段の挑戦を受けている。両者は前期竜王戦でも対戦(結果は4勝2敗で藤井防衛)。佐々木八段にとっては1年ぶりのリベンジマッチとなる。当時のエッセイ「竜王戦、開幕!」(2024年10月24日号)を転載する。
(段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)
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デビュー以来のライバル関係
「藤井聡太の連勝を止めた男」
2024年、第37期竜王戦七番勝負の挑戦者になった佐々木勇気八段。彼を語るとき、必ず冒頭のフレーズが紹介される。もう7年前になるが、それでもあのデビュー30連勝を賭けた一番で藤井聡太四段を止めた佐々木勇気五段(段位はいずれも当時)の鋭い眼差しは今も記憶に残る。
藤井七冠のその後の活躍はあらためて書くまでもないが、今の佐々木八段の充実ぶりも素晴らしい。昨年度の順位戦A級昇級(現在2期目)、藤井七冠に勝ってのNHK杯優勝、そして今回の竜王戦挑戦とあらゆる棋戦で勝ちまくっている。
私は一門の系譜では佐々木八段と従兄弟の関係だ。石田和雄九段(佐々木八段の師匠)の出身地で毎年行われている「岡崎将棋まつり」では何度も席上対局をしており、ちょっとした親近感も抱いている。
弟子(藤井)のライバルは師匠にとってもライバル……ではないが、実は私、1年だけ藤井、佐々木のライバル関係に割って入ったことがある。あれは第77期のC級1組順位戦、3人とも同じクラスで、しかも私は佐々木七段(当時)と対戦したのだ。




