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2010年W杯でも優勝しているが……

 身長185センチ。小柄な選手の多いスペインではめずらしくフィジカル面に恵まれ、一瞬で相手を振り切り、フィニッシュへ持ち込む素晴らしいスピードを持っていた。従って相手ディフェンスの背後に広がるスペースが、彼の「ごちそう」というわけだ。

 反面、そこを取り上げられると、持ち味を出しにくい。敵陣へ押し込み、狭いスペースでボールを出し入れするスタイルとは相性が悪かった。スペイン代表で次第に出場機会を失っていったのも、そのためだろう。

 スペインが初めてW杯で優勝した2010年の南アフリカ大会ではベンチに回り、大会終了後にチェルシー(イングランド)へ移籍。そこから鳴かず飛ばずの時期が続くことになる。まだ20代後半の頃だ。

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なぜ日本限定で「師匠」と呼ばれる?

 神の子から、人の子へ――。日本のネット上では、いつしか「師匠」と呼ばれるようになる。FWにも関わらず、ことごとくチャンスを外してしまう選手を(ノーゴール)師匠と呼ぶ、独特の慣習があるからだ。

チェルシーでは苦しんだものの、ゴール後に見せる雄叫びは印象的だった  ©文藝春秋

 あれだけのチャンスを棒に振るなんてことは、普通の人間にはできない……もう、師匠と呼ばせてください! そういうことか。人の子、それも典型的な「いじられキャラ」への暗転である。

 もっとも、師匠の呼び名には、尊敬の念も込められていた。点を決めずとも、立派にチームへ貢献している――と。

 ある意味、2014年に古巣アトレティコへ復帰してからのトーレスは、良い意味での「師匠」だった。

 確かにゴールの数こそ少なかったが、攻守を問わず体を張ってハードワークし、チームを支えていた。往年の姿を知る者にとっては物足りないが、プライドをかなぐり捨てて、泥臭い仕事も厭わぬ献身的な姿は、ファン・サポーターの心を打つのに十分だった。

いざJデビュー「頼みますよ、師匠!」

 トーレスは大物は大物でも、日の当たる場所をずっと歩いてきたわけではない。嘆かない、腐らない、諦めない――という生きた見本とも言える。点取り屋という以上の「隠れた値打ち」が、この人にはあるのではないか。

日本でもきっとファンを魅了してくれるはずだ ©文藝春秋

 才能や実績を鼻にかけ、取れるだけ取ったら、さっさとずらかる連中とは一味も二味も違うような気がする。日本の選手たちにとって、神の子よりも、実に人間臭い「師匠」の方が、学べるモノは多いのだろう。

 もちろん、本職(点取り屋の仕事)も十分に期待できる。何しろ、ハードワークと鋭い速攻が鳥栖の持ち味。トーレスの特長を生かすには、もってこい、というわけだ。

 早ければ、今週末(7月22日)のベガルタ仙台戦(J1リーグ)で、その勇姿を拝めるだろう。この夏、日本人を熱狂の渦に巻き込み、観る者の体温を異常上昇させる「エルニーニョ現象」が起きるか。頼みますよ、師匠!