バレーボール日本代表、同監督として活躍した中垣内祐一氏は、2022年に故郷の福井市に戻り、江戸時代から続く実家の農業を継いだ。その中でコメ作りの厳しい現実と、政府の農業政策の“至らなさ”を実感する機会は多いという。(聞き手 窪田新之助・ノンフィクション作家)
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コメ価格競争の激化
〈全国でJAの米の集荷率は下がる一方だ。EC(ネット通販)やふるさと納税の登場により、農家の直接販売が増えた。さらに2024年産になると卸や商社の新参者が産地に入り込み、JAよりずっと高値を提示するようになった。結果、JAによる同年産の集荷率は前年比86%になる見込みだ。
JAにとって米は組織力の源泉である。農家から高値で買うことで、その見返りのような格好で共済(保険)などの金融商品やジュース、茶など生活用品も売ることができた。だから2025年産は巻き返しをはかるはずである。
JA福井県が7月28日に開いた理事会で決定した「ハナエチゼン」の概算金(仮払金)は1俵あたり2万3000円。前年産から7000円も上げたのはその現れだといえる。
ところが福井精米が2週間後に新聞広告で示した価格は、JAの概算金を9000円も上回った。価格競争が厳しくなるなかでJA福井県は8月18日に臨時の理事会を開き、主要品種の概算金を値上げした。このうち「ハナエチゼン」は当初より5000円高い2万8000円に変更したものの、それでも福井精米には及ばない。JAが価格設定の時点で負けているというのは他産地でも聞く話で、今年産もまた集荷するのに苦戦する年になりそうだ。〉
――政府は2025年産から米の増産にかじを切りました。そんな矢先にこの酷暑と水不足です。生産に影響が出ていませんか。
中垣内 ここ福井平野では水不足の心配はさほどありません。九頭竜(くずりゅう)川の中流に堰があり、そこからパイプラインが福井平野に張り巡らされ、栓をひねれば田に水がひけるようになっているんです。今年は酷暑による高温の影響から、ハナエチゼンに未熟米が若干多い気もしますが、全体的な取れ高としては、うちはまずまずでしょうか。
――小泉進次郎農相は渇水対策で給水車を派遣すると発言しましたね。どう思われましたか。

