ライバル棋士の“藤井対策”は…
永瀬さんはこの問題に量的な解決策をとっています。彼はパソコンとずっとにらめっこをしているわけではありません。ほぼ毎日、対人の練習将棋をしています。実際に指すことで研究手順を記憶に定着させ、研究がはずれた後の急所、勝ち方まで頭にたたき込む。それを毎日、繰り返す。受験勉強で演習問題を解き続けるようなものです。そうでなければ、本番でさっと解法が浮かびません。
永瀬さんらしさを象徴するエピソードに、タイトル戦の出発日や帰京日であっても将棋を指している話があります。対局は朝から夜まで、脳を振り絞って考える戦いです。スタミナも大事になってくるわけですから、体調を整えて臨むのが自然でしょう。対局が終われば、疲れを癒やすために翌日はオフにして次に備えようと考えそうなものです。しかし、永瀬さんは将棋盤にしがみつくかのようにひたすら練習将棋を指す。トッププロを驚かせるほど、桁外れの努力です。
「藤井さんは努力10、才能10」
一方、藤井さんは練習将棋をあまり指しません。おそらくですが、永瀬さんと月に数回、指すだけでしょう。それで十分というのが恐ろしいところです。練習将棋を重ねなくても研究内容を記憶し、理解できるわけですから、AIとの親和性がより高いということです。
誤解を招いてはいけないのですが、藤井さんは楽をしているわけではありません。藤井さんの研究量は将棋界でもトップです。誰よりも藤井さんを近くで見てきた永瀬さんは、「自分が努力9、才能1とすれば、藤井さんは努力10、才能10」と語っています。
才能10はギフテッドです。誰もが藤井さんのようにはいきません。いまの若手棋士や奨励会員は、永瀬流の勉強方法をしています。永瀬さんほどの人がそこまで追い込んでいるのだから、彼らもやるしかないのです。ここ数年、三段リーグの勢力図は西高東低が続いていたのですが、近年は東が盛り返しています。それはひとえに永瀬さんが関東にいるからです。山川泰熙や吉池隆真などの新四段も永瀬さんの研究会で鍛えられました。現在ほど棋士が勉強している時代はありません。それは藤井さんではなく、永瀬さんの影響によるものだと思います。




