棋士として活動する傍ら、「教授」の愛称で、幅広く将棋の指導や普及に尽力している勝又清和七段。そんな勝又七段が東大で11年間にわたり行ってきた将棋講座をまとめた本『キホンからわかる 東大教養将棋講座』(日経BP)が発売された。
14歳2カ月でプロ入りした藤井聡太竜王・名人(七冠)から、将棋界のレジェンド羽生善治九段、そして77歳まで現役を続けた加藤一二三九段まで、多彩な世代が活躍する将棋界。そんな彼らの引退はどのように決まるのか? 以下、同書より一部を抜粋して紹介する。(全4回の4回目/最初から読む)
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現役最年長棋士は60代半ば
一般の会社が60歳で定年を迎えるように、棋士にも引退制度があります。大雑把にいってしまえば、負けが込んで既定の成績を残せなくなると引退です(お隣の囲碁界は成績による引退制度がありません)。将棋の現役最年長棋士を見ると、現在は60代半ばです。昭和や平成のように、70歳を超えた棋士が数人いる状況ではなくなっています。先述した競争激化の象徴のように思います。
棋士の引退に大きく関わってくるのは、順位戦という棋戦です。10カ月かけて行われるリーグ戦で、上から順にA級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組と5つのクラスに分かれています。最難関のA級は10人しか所属できず、優勝者は名人戦への挑戦権を獲得できます。
各リーグは昇降級制で、成績上位の棋士は一つ上のクラスに昇級、下位の棋士は下のクラスに降級となります(B級2組以下は降級点制度で、累積で降級が決まる)。タイトルを持っていたり、段位が最高位の九段であっても、順位戦の成績が悪ければ降級です。そして、三段リーグのように前期の成績に応じて「順位」が付き、同じ成績なら順位が優先されて頭ハネが生じます。そのときの実力や調子が反映されるため、相撲の番付のような役割を果たしています。
三段リーグを1位と2位で抜けた新四段は順位戦に参加できます。最初はいちばん下のC級2組から参加します。順位戦には飛び級はありません。ほかの棋戦は新四段でも勝ち上がればタイトル挑戦が可能ですが、名人戦への挑戦だけはそうはいきません。一歩ずつクラスを昇級していくしかないため、毎年、昇級を重ねたとしても最短で5年かかります。
若手棋士でも引退する恐れがある
逆にC級2組から降級してしまうと、フリークラス所属になります。フリークラスは順位戦に参加できません。フリークラスに降級したまま10年が過ぎる、または60歳になると現役を引退しなければなりません。規定の成績を上げれば順位戦に戻ることはできるものの、ハードルは高いです。例えば規定の一つ「良いところ取りで30局以上の勝率が6割5分以上(20勝10敗以上)」は、若手や実力を評価される棋士であっても必ずクリアできるわけではないと思います。せっかく厳しい奨励会を抜けても、C級2組からフリークラスに降級してそのまま引退する恐れもある厳しい世界なのです。三段リーグで次点2回、または棋士編入試験を突破した棋士はフリークラス所属になります。つまり規定の成績を上げられなければ棋士になって10年で引退に追い込まれるわけです。




