「自分と向き合う」視線の理由

 先述したように、筆者がコスメデコルテの広告から強いインパクトを受けた要因の一つは、大谷が「ほぼ正面から真っ直ぐ前を見つめている」ということです。デパートのコスメ売り場に掲出されるモデルの写真は、顔を傾げていたり、振り向くような姿勢だったり、四分の三正面で左右どちらかの目線を強調していたりと、買い物客の注意を惹きつけ、アイコンタクトを取ろうとするような視線で捉えられるのが一般的です。男性モデルの場合は「首を傾げて、流し目や上目遣いをする」「肩幅を強調しないように肩の先を画角から外す、肩を内側に向ける」といったキメ顔やポーズがよく用いられます〔図3〕。

EXOのKAIを起用したボビイ ブラウンの広告(2021年)出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000013399.html
Snow Manの渡辺翔太を起用したフラルネの広告(アルビオン、2023年)出典:https://www.albion.co.jp/closeup/flarune_special/23FW/

 このような表情やポーズは、男性のアイドルや俳優に対して女性ファンが抱く憧れや恋愛感情に訴求するものとして作り出されています。たとえ高身長でがっしりした体型の男性であっても、甘えるような表情や気があるような素振りで上目遣いで訴えかけてきて、力強さや身幅で女性を威圧しないこと、それがコスメ売り場で受け入れられる「美麗な男性像」の条件です。

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 このような「女性の目線から見て評価される( ≒モテる)男性像」の傾向に照らし合わせると、「正面で真っ直ぐ前を見つめている」大谷の写真は異彩を放っています。この視線の表現は「肌を整える。それは自分と向き合うこと。」というキャッチコピーと結びつき、彼の視線は他者に向けられているのではなく「自分と向き合う」視線、すなわち鏡に映った自分自身を見つめる視線であることが示唆されています。