企業広告の性差別的な表現が批判を浴び“炎上”した事例は数えきれない。しかし対象となるのは、ルッキズムや性的消費などをはじめ、女性に関する表現ばかりだ。広告で男性がどう描かれてきたかは、これまで取り上げられる機会が少なかった。
ここでは、広告のジェンダー表現について長年分析を続けている小林美香氏の『その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地』(アサヒ新書)より一部を抜粋。
ウエストテープにブランドロゴがデザインされた男性用下着を販売するカルバン・クライン。今では一般的な、下着1枚の男性が性的魅力を提示する広告は、かつては画期的な表現だったという。男性下着広告の“男らしさ”を分析する。(全4回の2回目/続きを読む)
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カルバン・クラインと腹筋の商品価値
男性が下着にこだわり、好みの下着を選ぶ心理的な要因として、「男性としての自分を意識し、自身に気合いを入れる」ことがあります。その中でも、「下半身がしっかりと固定される感じ」が「男性としての精悍さや凛々しさの感覚に結び付く」とされています【※1】。
この引き締まった感覚を強調するのがパンツのウエストテープであり、ブランド下着にはウエストテープにロゴがあしらわれています。アパレルブランドの商品ラインナップの中で、下着はアウターウェアに比べて安価であり、消費者が最初にブランドの商品に親しむきっかけとなります。ロゴアイテムと呼ばれるブランドのロゴをあしらったTシャツやパーカーがそうであるように、下着は、ブランドの存在や価値を周知させる役割を担い、ブランドにとってのメディアとしての役割を果たしているのです。
また、ブランド下着の広告写真やCMは、引き締まった腹直筋を持つ男性たちをモデルに起用し、彼らをそのブランドの価値を体現する存在として描き出します。モデルは単体としてだけでなく男性たちの集団として描かれたり、集団の中で競いあったりするような関係性が描き出されたりもします。
そんなブランド下着の代表格といえるのがカルバン・クラインです。カルバン・クラインはさまざまな商品を展開するブランドですが、広告を通して宣伝されているのは主に下着とジーンズおよび香水で、とくに都市部では巨大なビルボードや建物の壁面全体を覆うような大型のヴィジュアルが掲出され、話題を集めます。
