細マッチョのK‒POPスターが示す新しい「男らしさ」

 ちなみに1950年代は、ブリーフの広告であっても男性は上半身にTシャツを身につけて登場し、さまざまな洋服を着ている場面とともに描かれるなど、男性の身体そのものに焦点は合わせられていませんでした。以降、下着のカラーバリエーションやデザインが増え、広告で男性の逞しい体格を印象づけることはあっても、半裸で性的なニュアンスを押し出すものではありませんでした。

 筋骨隆々とした男性が堂々たる体躯を誇示するようなポーズをとる写真は「ビーフケーキ(beefcake)」と呼ばれ、1950年代から1970年代にかけて主にボディビルディングやフィジークの愛好家に向けた雑誌に掲載されました。それらの写真は主に男性同性愛者の間で、エロティックな男性のイメージとして受容されていました。

 また、1970年代からファッション写真の中で、ヘルムート・ニュートンやギィ・ブルダンのような写真家が露骨に性的な要素を取り入れて女性を描き出す作品を発表して注目を集めるようになり、このような傾向が呼び水となって1980年代にブルース・ウェーバーのホモエロティックな写真がファッション写真を通して受容されるようになったのです【※3】。

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 カルバン・クラインは今日にいたるまで、下着とジーンズのキャンペーンで著名な俳優やアスリート、モデルを起用し続けてきましたが、いずれも「腹筋・オブ・ザ・イヤー」と称されるべき、鍛え上げて割れた腹筋を誇示しています。

 モデルは欧米圏での知名度を反映して、現在も白人や黒人の男性に偏りがちな傾向はありますが、K‒POPの隆盛を背景に、2010年代末からEXOのレイ(2019年)、BTSのジョングク(2024年)、SEVENTEENのミンギュ(2024年)がアンバサダーに起用されています。東アジア出身の男性スターは、白人や黒人のスターやアスリートに比べると若干細身であり、細マッチョな体型を印象づけることが「男らしさ」の幅を広げる「多様性」表現の一環になっていることもうかがえます。

カルバン・クラインの広告に起用されたEXOのレイ(2019年) 出典:https://www.fashionsnap.com/article/2019-08-12/calvinklein-irl/

 また、カルバン・クラインに続くようにしてさまざまなブランドがウエストテープにロゴをあしらったパンツを発売するようになりますが、広告の中ではモデルの男性の肉体を強調するとともに、女性と身体を密着させるような場面を描いて、性的な魅力があってモテる男性はブランドの下着を穿いていることを直接的に示唆することもあります。