企業広告の性差別的な表現が批判を浴び“炎上”した事例は数えきれない。しかし対象となるのは、ルッキズムや性的消費などをはじめ、女性に関する表現ばかりだ。広告で男性がどう描かれてきたかは、これまで取り上げられる機会が少なかった。

 ここでは、広告のジェンダー表現について長年分析を続けている小林美香氏の『その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地』(朝日新書)より一部を抜粋。

 女性タレントが「おじさんの詰め合わせ」と称したことで賛否両論を巻き起こした2024年の自民党総裁選ポスター。次の総裁選を目前に控えた今、改めてそのデザインにどんな意図が込められていたのかを分析する。(全4回の4回目/最初から読む)

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「おじさんの詰め合わせ」発言が引き起こしたハレーション

 2024年8月、自民党が翌月の総裁選挙に向けて、歴代総裁が登場するポスターとウェブ動画を公開しました。同日、TBS系の報道番組「news23」で、コメンテーターを務めるタレントのトラウデン直美がポスターに対する印象を尋ねられ、「『おじさんの詰め合わせ』って感じがする」と述べたところ、インターネット上で賛否両論の大反響を引き起こしました。

自民党総裁選2024「THE MATCH」ポスター(自民党、2024年)出典:https://www.jimin.jp/news/press/208882.html

 賛同する意見としては、実際にポスターにいるのは「おじさん」や「おじいさん」といってもよさそうな高齢男性ばかりで、このポスターはそうした人々だけが自民党総裁を務めてきたことを端的に示し、日本の政治の男性中心主義とジェンダー不平等を反映している、というものです。

 それに対して否定的な意見は、「おじさんの詰め合わせ」という文言に対して向けられたものでした。つまり、自民党総裁という、日本の中で最も高い地位と名誉を付与され権力を行使する立場にある男性をひとしなみに「おじさん」と括ること自体が、彼らを腐すような敬意に欠けた表現であり、「詰め合わせ」という比喩は、まるで人をモノのように扱う男性差別的な表現だと指摘する意見でした。

 自民党総裁に限らず、社会における公的な重要性を持つポストがいまだにほとんど「おじさん」に占められているという紛れもない事実を指摘する言葉が、「おじさん」がコントロールする地上波テレビ番組で若い女性の口から発せられ、「おじさん」を中心に感情的なハレーションを引き起こしました。これが、「おじさんの詰め合わせ」発言に対する反響であり、若い女性が公的な空間で年長男性を「おじさん」と呼んで発言すること自体に対する忌避感情が「おじさん」の間で広く共有されていることの証左でもあります。

 たとえ話ですが、仮に毒蝮三太夫がラジオ番組でこのポスターを指して「『ジジイの佃煮』みたいな絵面だな」と評したとしたら、その発言は権力者に対する風刺を込めた表現として面白がられることはあっても、ここまで熾烈に非難されることはなかったでしょう【※1】。男性のあり方を批評し、茶化す対象とする言動が許容されるのは、年齢や立場が近い男性に限定されるのです。