小泉は「聖域なき構造改革」や「自民党をぶっ壊す」といったインパクトのある短い言葉で国民に語りかける「ワンフレーズ・ポリティクス」を得意とし、総裁に選出された2001年には、自民党本部の外壁に「小泉純一郎を支える自民党に、力を。」というキャッチコピーで自身の顔を仰角で捉えた写真の巨大な垂れ幕を掲出して、「見上げられる」リーダー像を強く印象づけました。
さらに自民党は同デザインのポスターを販売して、発売開始5日間で10万枚を売り上げるほどの人気を博しました【※5】。こうした人気を背景として、アイドルのように写真集『KOiZUMi 小泉純一郎写真集』(鴨志田孝一撮影、双葉社、2001年)を発売するなど、出版社やテレビといったメディアと一体になって自身と自民党を宣伝したことも知られています。
「小泉劇場」とも呼ばれた劇場型の政治手法で一世を風靡したやり方を、四半世紀近く経っても踏襲したいという意図が、「おじさんの詰め合わせ」ポスター内での扱いの大きさからも感じ取られます。
いくらビジュアルで「刷新感」を演出しても…
「時代は『誰』を求めるか?」とポスターは問いかけましたが、実際のところ総裁選で投票権を持っていたのは限られた国会議員と党員のみです。最新のAIやデジタル技術を駆使したコラージュと映像表現で「刷新感」を演出し、メディアを通して広く国民にアピールしたいという自民党広報の目論見は、「おじさんの詰め合わせ」という発言によって一蹴され、根底にある家父長制的な価値観や、メディアを通して形成されてきた政党と政治家のイメージに対する意識を浮かび上がらせることになりました。
「おじさんの詰め合わせ」というトラウデン直美の発言に端を発した「炎上」を契機とするだけではなく、政治家や政党がどのようなイメージや言葉を使って政策を訴えかけているのかを日常生活の中で意識することは、批評的な観点から政治に関心を向ける一助になるのではないでしょうか。そういった観点を養うためにも、街中に掲出される選挙ポスターを注意深く観察することは有益でしょう。
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※1 毒蝮三太夫はタレント/ラジオパーソナリティで、高齢の視聴者に親しみを込めてジジイ、ババアと呼びかけてつっこみ、笑いを取ることで知られます。
※2 「時代は誰を求めるか? 自民党総裁選2024『THE MATCH』について」自由民主党、2024年8月21日
https://www.jimin.jp/news/press/208882.html
※3 「第92回党大会を開催 参院選 必勝へ一丸の決意『政治は国民のもの』立党精神への思い新たに」自由民主党、2025年3月9日
https://www.jimin.jp/news/information/210111.html
自民党広報本部長・平井卓也のX(旧Twitter)投稿
https://x.com/hiratakuchan/status/1923202599328866727
※4 「【日本維新の会】政治はいつ変わるのか。#維新はやる」YouTube(現在は非公開)
https://www.youtube.com/watch?v=yoSMg2dGhEY
※5 「小泉首相ポスター大売れ/行列で自民笑い止まらず」四国新聞、2001年5月25日
https://www.shikoku-np.co.jp/national/political/20010525000009