「おばさんの詰め合わせ」は女性差別と批判されるのか

「おじさんの詰め合わせ」が「男性差別」であるという批判の中で、「おばさんの詰め合わせと言ったらそれは女性差別だと批判するだろう」という意見もありましたが、「おじさん」と「おばさん」では、社会やメディアにおける扱われ方に大きな違いがあります。そもそも、「おばさん」と呼ばれるような中高年以上の女性が広告や広報に表象されることは極めて少なく、あったとしても介護や看取りなどのケア労働に関するものであり、「おばさん」は社会の中でその存在自体がほとんど見えない状態にされています。

 周囲から「おばさん」と名指されることを失礼と感じ傷つく人もいるとは思いますが、筆者としては、自ら選んで「おばさん」と名乗る女性たちが、社会の中でいきいきと存在をアピールする「おばさんの詰め合わせ」ポスターを見てみたいと思います。ジェンダー間の不均衡が続く状況の中で、「おじさん」ばかりが社会的な信頼性・指導的立場を担保する存在として扱われていることに苛立ちを感じている若い女性は多いことでしょう。

 若い女性のコメンテーターは、テレビ番組を円滑に進行するために、「おじさん」の発する言葉にニコニコしながら相槌を打つ役割を担わされてきました。メディアの中で女性に課せられるそのような振る舞いを苦々しい気持ちで見てきた筆者としては、臆することなく自分の考えを正直に表明する人の登場は喜ばしいことだと考えます。

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 ここで「おじさんの詰め合わせ」と評された総裁選のポスターと動画の表現に目を向けてみましょう。このキャンペーンでは、初代デジタル大臣を務めた平井卓也広報本部長が制作指揮をとり、党内にストックされた7万枚の写真の中から選ばれた歴代総裁の写真が素材として使われました。

 それぞれの総裁は在任期間と認知度に応じてサイズが決められ、コラージュされた画面の中央に「時代は『誰』を求めるか? THE MATCH 自民党総裁選2024」というキャッチコピーが掲げられています。MATCHには「試合・勝負事」と、「国民のニーズと自民党の政策を『マッチング』させる」という二つの意味が込められています【※2】。

 認知度を反映して、安倍晋三、田中角栄、小泉純一郎の3人が目立って大きく扱われ、その間を埋めるように歴代の総裁が配置されています。素材になったのは演説や答弁の最中に撮影されたものが多く、それぞれ大きな手振りが印象に残るような写真が選別され、構成されています。昭和の時代の総裁は相対的に小さな姿で収められていますが、画面の右上端の岸信介は静的なポーズや表情、周りの余白も相まってどこか浮いていて、画面中央にいる孫の安倍晋三を背後から見つめるように配置され、まさしく「昭和の妖怪」の様相を呈しています。