神格化を意図したライティング

 一方、動画広告では正面像に加えて、大谷の顔はさまざまな角度から捉えられています。暗い空間の中でたたずむ大谷は旋回するカメラで捉えられ、鏡の中に映った自分に「やることをやってきたか。いい顔ができているか。」と問いかけます。「肌を整える。自分が整う。」というセリフに続き、大谷が鏡の中の彼自身と互いに手を差し出しあって頬に触れるという異空間の交差が示されるのです。「鏡」の存在や旋回するカメラワークは、大谷を正面からだけではなく、あらゆる角度から拝みたいという崇拝の視線を表現しています。

 暗闇の中で上方と下方から白く光るライトボックスに照らし出される大谷の表情の変化がアップで捉えられた後、「リポソーム リペアセラム」という呪文のような商品名のナレーションとともに、美容液のボトルが霊験あらたかな秘薬のように湧き出る水の中から浮かび上がります。

 上方と下方から照明をまんべんなく当てて顔立ちの立体感を際立たせる演出は、美術館や博物館で陳列される立体作品を照らすライティングを連想させます。ピンスポットのライトではなく、ライトボックスで面として光を当てること、これは水面の反射光に近いもので、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像の顔が阿字池の反射光で照らし出される様子に通じるものがあります。

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平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像とコスメデコルテCMの大谷翔平

 つまり、一般的な人物描写で用いられるライティングとは異なり、とても貴重なもの、神々しい存在であることを指し示す光の演出なのです。このようなライティングのもとで鏡に映る自分を見るという行為は、大谷にとっては自己の内面に向きあい、外見だけではなく心を整え、さらなる高みを目指す精神鍛錬であるというメッセージが込められています。このように大谷の精神性を表現することに比重を置いた広告を通して、コスメデコルテは男性からの支持も得るにいたったといえるでしょう。

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※1 『DIME』2025年2・3月増刊号
※2 「DECORTÉ ╳ 大谷翔平 特設サイト」コスメデコルテ
https://www.decorte.com/site/s/liposome_ohtani.aspx
※3 2023年からの広告起用によるヒットにより、表参道でポップアップショップが2024年、2025年に開設されました。
※4 「大谷翔平が選んだハイブリッドマットレス[エアーSX]|AiR【公式】」[エアー]マットレス
https://www.airsleep.jp/ohtani/

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