7月、8月はお盆の季節。先祖を想い、大人から子供まで、手を合わせる大事な日本の行事の1つだが、ここ数年、“骨壺”の世界に変化が起きている。
高級陶磁器メーカーが見た目も美しい、様々な柄やデザインの骨壺を発売して、評判を呼んでいるという。佐賀県の有田焼の老舗、創業330年を迎える香蘭社が、この骨壺ブームの火付け役である。
「およそ30年前、社員のお父様のご葬儀に参列して、斎場の支配人の方とお話ししたとき、『数年したら、葬儀が変わってきますよ。故人が好きだった音楽を流したり、骨壺も白一辺倒じゃなく、華やかで、立派なものが喜ばれる時代になるでしょう』と言われました。そこで、うちもやってみるかと取り組み始めたのです」と社長の深川さんは振り返る。
同社は明治政府に依頼されて日本初の碍子(がいし/電柱に取り付ける白い磁器製の部品)を製造。皇室献上品など、高級陶磁器ブランドとして発展し、瑠璃色やグリーンの地に蘭の柄をあしらった食器類は、長らく結婚式の引き出物の定番だった。
「ブライダルが社の主力商品だった頃は、骨壺はイメージが合わないからと細々やっていたんですが、本格的な高齢化社会の到来と共に、斎場でのカタログ注文を通して売れ行きがぐんと伸びてきました」
骨壺の意匠は多様。胡蝶蘭、翠蘭(すいらん)、オリエンタル蘭など、香蘭社のシンボルともいうべき蘭の絵柄の入ったものはもちろんのこと、すっきりした白地に山水画や複雑なカッティングを施したものや華やかな桜やバラの柄、明治時代のデザインを復刻したものもある。
大きさは東日本・西日本の地域差を考慮して、5寸から7寸の骨壺のほか、手元に置いておける可愛らしい2.5寸(高さ9センチ)のサイズも好評。中心価格帯は2万円台から7万円台。
「『こんなきれいな骨壺があるなら』と入れ替える方も多いですね。オーダーではお顔写真やゴルフのベストスコア表を全面に、と注文されたご家族もおいででした」
故人のための骨壺だけでなく、自分用に好きな骨壺を求める人も増えている。“生きること・死ぬこと”に向き合ういまの日本人の気持ちが骨壺への関心の高さに表れているのかもしれない。
「当社では骨壺はすべて手作業で、素焼きの削り仕上げ作業も2人しかいない職人が担当しています。有田焼は日本が守って来た陶磁器の文化の1つ。骨壺をきっかけに、有田焼を皆さんの生活の近くに、たとえば若い方たちにも有田焼の食器を手にとって頂けたら嬉しいですね」
ふかがわゆうじ/1957年、佐賀県出身。東海大学工学部卒業。日本マクドナルド株式会社に勤務した後、87年、香蘭社に入社。同社営業部、香蘭社商事電力事業部などを経て、97年、香蘭社・香蘭社商事の取締役に。2007年、香蘭社グループ6社を合併、存続会社は株式会社香蘭社。13年より現職
香蘭社ホームページ
https://www.koransha.co.jp/
有田町観光協会「ありたさんぽ」
https://www.arita.jp/