「井原戦国三部作」の最新シリーズとして、真田家と、そこに仕えた実在の無名武士・鈴木右近の物語を描く「真田武士心得」シリーズ。作家・井原忠政氏は、主人公・右近を「異端児」と語る。作中の右近は熊のような大男で、巨大な野太刀(刃長が3尺〈約90.9cm〉を超える太刀)を振るう。そのキャラクター造形には、意外な創作秘話があった。
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――右近のキャラクター造形が非常にユニークです。熊のような巨体で野太刀を振るう「野人」という設定は、どこから着想を得たのでしょうか。
井原 これは創作の裏話になりますが、毎回主人公を考えるときは、これまでのキャラクターたちと被らないように、全く違うタイプにしようと心がけているんです。茂兵衛や与一郎とは対極にいるような、もっと野性的で規格外の男を描きたいな、と。そう考えた時に、自然と「熊のような大男」というイメージが湧いてきました。彼の武器も、繊細な技が求められる槍や弓より、その巨大な体躯を生かせる豪快な「野太刀」が一番しっくりくる。もう、これしかないだろう、と直感的に決まりましたね。
――それが、作中で柳生家の家宝の野太刀と結びついていくのが見事でした。右近の剣の師匠となる柳生宗章もまた、飄々としていて掴みどころのない、魅力的なキャラクターですね。
井原 宗章が飄々としているのは、完全に私の趣味ですね(笑)。私の小説では、スーパーマンは主人公や主要人物にはなりません。なぜなら、完璧な人間が偉大なことをしても、そこに大きな驚きや感動は生まれにくいからです。
むしろ、欠点だらけの人間が、運命に翻弄されながらも成長し、何かを成し遂げた時にこそ、読者は大きなカタルシスを感じると思うんです。そのギャップが面白い。日本の漫画もそうじゃないですか。元々は落ちこぼれだったり、ひねくれ者だったりする主人公が成長していく。そういう物語に、みんな惹かれるんだと思うんです。

