朗読をして、思わず感情が込み上げてきたパート
瀬奈 2人目の子を迎えたときに、生みのお母さんと、それからおばあさんにお会いしたんです。場所はホテルのラウンジでした。『朝が来る』と同じですよね。だから、このシーンにはものすごく感情移入したんですけれども、やっぱり辻村さんがきちんと取材をされているからこそ、当事者が共感できるんだと思います。
辻村 当事者の皆さんからいただいたものが、養親の佐都子のことを書いているときも、生みの母であるひかりのことを書いているときも、私を支えてくれていた気がします。
瀬奈 オーディオブックの収録のときは、読んでいるうちに涙が出てきて、大変でした。
辻村 そうなんですね! とても落ち着いて朗読していらっしゃるように感じたのですが。
瀬奈 もう必死に堪えていました。佐都子のパートに感情移入するのはもちろんなんですけど、実は、ひかりのパートを読んでいるときのほうが涙を抑えられませんでしたね。生みのお母さんの気持ちって、想像することしかできないわけです。2人目を迎えたときに少しお話をしましたけど、短い時間でしたから。
ひかりのパートを読んでいると、「こんな気持ちで妊娠期間を過ごしたのかな」とか、「こんな気持ちで子どもを送り出したのかな」とか、いろんな思いが込み上げてきて、ものすごく感情を揺さぶられました。
辻村 実は私も、瀬奈さんの朗読を聴いて涙が出てきたんです。自分が書いた文章なんですけど、改めて瀬奈さんの語りで聴いたら、感極まってしまって。ひかりは、家族をはじめ他人に受け入れてもらえなくて、過酷な状況に追い込まれていきます。しかし、瀬奈さんの声があることで、彼女に伴走してくれる人の視線というものを感じることができたんです。そこにすごくグッときて、涙があふれてきました。
※朗読にあたって瀬奈さんが意識したことや、瀬奈さんとお子さんたちの日常、フィクションの世界で起きた変化などについてお二人が語った記事全文は、『週刊文春WOMAN2025秋号』で読むことができます。
辻村深月 Mizuki Tsujimura
1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年に『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞しデビュー、 12年『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。15年に刊行した『朝が来る』は16年にドラマ化、20年に映画化。
瀬奈じゅん Jun Sena
1974年東京都生まれ。92年に宝塚歌劇団入団、2005年に月組トップスター就任。09年に宝塚歌劇団退団後、10年に女優として本格的に活動開始。特別養子縁組制度を通じ、17年に息子を、22年に娘を迎える。
写真:鈴木七絵
ヘアメイク:松元未絵(瀬奈さん)
スタイリング:下平純子(瀬奈さん)
