養子を迎え、幸せな日々を送る主婦・佐都子のもとに、ある日、一本の電話がかかってくる。
「子どもを、返してほしいんです」
突然のメッセージに込められていたものとは、いったい何か――。
特別養子縁組をモチーフとした辻村深月さんの小説『朝が来る』が、刊行から10年の時を経て、このほどオーディオブック化された(Amazon「オーディブル」で9月19日から配信中)。朗読を担当したのは、元宝塚歌劇団月組トップスターで、現在も舞台を中心に幅広く活躍する俳優の瀬奈じゅんさん。瀬奈さんは、不妊治療を経て、2人の子どもを特別養子縁組で迎えた当事者でもある。
作品への思い、オーディオブック制作時の秘話、さらには日常生活のあれこれまで、辻村さんと瀬奈さんが存分に語り合った。『週刊文春WOMAN2025秋号』より一部を抜粋・掲載します。
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「当事者から見える景色とは違うのでは」と不安だった
辻村 今回のオーディオブック化が決まったとき、「朗読をお願いしたい方はいますか?」と聞いてくださったので、「ぜひ瀬奈さんに」とお伝えしました。ご快諾いただき、ありがとうございます。
瀬奈 オファーのことを聞いた瞬間に、「やります!」と即答しました。『朝が来る』の大ファンで、2020年に映画化されたときには、「出演したかった」と思っていたくらいなんです。
辻村 2020年に、瀬奈さんが出演されたお芝居を観に行ったことがありました。世田谷パブリックシアターでの公演で。
瀬奈 劇作家の長田育恵さんと瀬戸山美咲さんが手がけた「現代能楽集X『幸福論』」ですね。
辻村 観劇前にプロデューサーの方から「瀬奈さんが『朝が来る』を絶賛してましたよ」と教えてもらったんです。私はもう嬉しくて。
瀬奈 長田さんや瀬戸山さんにも「これは絶対に読んだほうがいい」とお勧めしていましたから。
辻村 本当はご挨拶をして帰りたかったのですが、当時はコロナ禍で叶いませんでした。
瀬奈 あのころは面会が制限されていましたからね。
Audibleにて9月19日より配信中
著者:辻村深月 ナレーター:瀬奈じゅん
URL : https://www.audible.co.jp/pd/B0FL7F4S6L
辻村 以来、瀬奈さんと何かお仕事をご一緒したい、できれば『朝が来る』関連で、と思っていたんです。今回それが実現して、とても嬉しく光栄に思っています。
瀬奈 私も嬉しいです。これまで特別養子縁組を題材にした様々な作品を読んだり観たりしてきましたが、『朝が来る』がいちばんリアルだと思います。なんだか上から目線のような言い方で申し訳ないんですけれども、「すごく勉強されたんだな」ということが伝わってくる内容なんですね。
辻村 瀬奈さんが読んでくださっていると聞いて、嬉しく思いつつ、怖くもあったんです。いくら勉強をして書いたとしても、当事者の方から見える景色とは違うかもしれないし、きっと違和感もあるだろうと想像していたからです。

