「確かに彼氏がいるという情報になっているが、これは本当のことか?」
「遠距離でほとんど会えないんです。だから、肉体関係もありません」
「それなら、1カ月ほど前に路上を一緒に歩いていた男は誰だ。あれは彼氏ではないだろう?」
ちょうどその頃、職場の研修で、同期の男性社員と歩いていたことがあった。そのことを思い出し、純子さんは本当に監視されているかもしれないと震え上がった。
「また夜に電話する。誰にもしゃべるなよ」
傷ついた女性をさらに追い詰める「卑劣な手口」
その夜、金沢から携帯に電話がかかってきた。自宅の住所を聞かれ、大まかな場所を答えると、「こっちはすべて調べて分かってるんや。お前の人間性を見ているんだ。それなのにそういう態度を取るのか」と叱られ、正確な住所を答えさせられた。こうしてプライバシーを丸裸にされ、2日後に会う約束をさせられた。
「紙とペンを持ってくるように。当日は家を出たところから、部下が見張っているから、そのつもりでな」
純子さんは周囲の人間が怖くて、下を向いて歩き続けた。待ち合わせ場所の駅に着くと、公衆電話から携帯に着信があり、別の場所まで来るよう命じられた。
「さっき部下から報告があったけど、ホームで下を向き過ぎだ。もっと胸を張って歩け!」
それを聞いて、また凍りついた。組織の人間がすぐ近くにいる。いつさらわれてもおかしくない。自分が助かるには、金沢の言うことを聞くしかない。純子さんはそんな心理状態に陥っていた。
あらためて待ち合わせ場所で待っていると、背後から自転車に乗った男が近づいてきた。
「オレの顔を見るな。後ろの荷台に乗れ。怪しまれるといけないから、背中にもたれてくれ」
そして、連れて行かれたのは古びたマンションだった。背中を押されて部屋に入り、正座させられた。
「助けてほしいんやったら、オレの顔を見てもいいけど、どうする?」
「助けてほしいです」
純子さんは即答した。顔を上げると、眼鏡をかけた細身の中年男がいた。この男が本当にそんな恐ろしげな組織の幹部なのだろうか。
「実はな、あんたを強姦してくれと依頼してきた男を問い詰めたら、ウソだったことが分かったからボコボコにしたんや。でも、ブラックオールの存在を知ってしまった以上、組織の人間に集団強姦され、ビデオに撮られなければならない」
「それは絶対イヤです……」
ポロポロと涙をこぼす純子さんに対し、金沢は救いの言葉を投げかけた。
「それならオレと関係を持ったら助けてやる。本当はこんなことしたらアカンのや。いきなり組織に連れて行くんや。けど、オレの死んだ女房の名前が純子やった。あんたには親近感を持った。組織から守るには、幹部と関係を持たなアカンのや」
