3話目「金曜日のミッドナイト」(コウイチ・著)

「金曜日のミッドナイト」は、街頭インタビュー形式のバラエティ番組がありありと浮かんでくる一編ですね。コウイチさんは映像系の方なんですか、納得です。テレビ画面を見ているような、あるいは自分がハンディカメラを構えているような感覚で没入して読んでいるとじょじょに不穏さが侵食してきて……これ、きっと動画にすると、文字にされていない細かな違和感やフラグがたくさんあるんじゃないでしょうか。ゲームの『8番出口』みたいに。コウイチさんに見えているものを余さず知りたくなります。

 ここからは後半戦ですか。ちょっと、冷蔵庫から麦茶取ってきてもらっていいですか? グラスはそのへんのを適当に。氷は大丈夫です。すみません、お使いだてして。

 ……あーおいし。エアコン効かせても喉渇いちゃうんですよね。日当たりいいでしょ、南西向きです。え? いえ、隣の部屋には誰もいません。散らかってるから閉めきってるだけで。何か気になりました? 大丈夫ですか?

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背筋、澤村伊智、梨、コウイチ、はやせやすひろ×クダマツヒロシ、栗原ちひろ… 最高峰のホラー作家たちが集結した『令和最恐ホラーセレクション クラガリ』(文春文庫)

4話目「警察が認めた〈最恐心霊物件〉」(はやせやすひろ×クダマツヒロシ・著)

 さて、気を取り直して。はやせやすひろさんとクダマツヒロシさんの「警察が認めた〈最恐心霊物件〉」。この本の中では非常にオーソドックスで直球の幽霊譚ですね。ただ、めちゃくちゃ剛速球! 心霊現象全部盛りみたいな、家ガチャ最悪のSSRを引いてしまったある女性の体験談なんですけど、心霊で片づけられない不気味なしこりがずっと残ります。この手の本物は、どんなに「大島てる」をチェックしても避けられないんでしょうね。でもこれって、大阪~和歌山のどこかってことですよね? 大阪のわたしにはそれがいちばん怖かったので、はやせさんにこっそり、エリアだけでも訊いといてください。

5話目「余った家」(栗原ちひろ・著)

 続いて、栗原ちひろさんの「余った家」。これ、『別冊文藝春秋』で読んだ時から大好きだったやつです。主人公の一家の、何とも言えない気持ち悪さが秀逸で。言葉は通じるのに話が通じない恐怖って、誰しも経験してますよね。それが家族だったらと思うと……。蟻地獄みたいな家に呑まれまいと主人公は必死にもがいている。砂の底には「余った家」が待っていて、その中に落ちてしまえばきっと楽になれるんでしょう。最後の一行、主人公が放った台詞に「ああ……」と声が出ました。それがどういう感情だったのかは、ぜひお読みになって味わってほしいです。