今年3月にNHKを退社し、フリーアナウンサーとして活躍中の中川安奈さん(31)。幼少期からフィンランド、プエルトリコで育ち、英語・スペイン語を習得する中、CNNの女性キャスターに憧れてメディアの道を目指した。海外生活で味わった人種差別、そして話題となったパリ五輪の衣装問題まで、彼女の歩みを追った。

中川安奈さん ©文藝春秋

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「皆の目は丸いのに、なんであなたの目はこうなってるんだ」海外で経験した人種差別

 中川さんは3歳から6歳までフィンランドで、10歳から14歳までプエルトリコで過ごした。特にプエルトリコでは人種差別を経験したという。

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「外に出たら、必ずちっちゃい子どもとかから、『チーナ』って言われて」と中川さん。スペイン語で「中国人」を意味する言葉で、「皆の目は丸いのに、なんであなたの目はこうなってるんだ」と目を吊り上げるジェスチャーをされることもあった。

「子どもながらに思ったのが、やっぱり現地の人ってヒエラルキーのような三角形があったらそのトップにいて。フィンランドやプエルトリコにいたら当然、自分はそこには入れないし、かといって日本にいても、“帰国子女”という枠に入れられてしまって」と当時の心境を語る。

プエルトリコ時代の中川安奈さん(写真=本人提供)

「軸を持って自分の言葉で語っている姿にしびれた」CNNの女性キャスターに憧れてメディアの道へ

 そんな中で出会ったのがCNNの女性キャスターだった。「全身から“我(われ)”という感じで、軸を持って自分の言葉で語っている姿にしびれた」と中川さんは当時の衝撃を振り返る。

 帰国後、慶應義塾大学でジャーナリズムを学んだ中川さんは、ヘイトスピーチの現場取材など社会問題にも取り組む。「NHKのような大きなメディアだからこそ、小さな声をすくい上げて、誰もが生きやすい環境づくりにつなげていくべきではないか」という思いでNHKを志望し、入社を果たした。

 しかし、NHKの“枠”に合わせる苦労もあった。「新人のときはネイルから指導が入って、香水についても『香水なんてつけて行ったら取材相手がびっくりするでしょ』と指摘された」と中川さんは話す。

「私が入局した2016年の頃と今とではまた違うと思います。今はダイバーシティいうか、それぞれの個性をより大切にする世の中の流れがありますが、当時はもっとカッチリとしたアナウンサー像というのがあった気がしていて」と当時を振り返る。

 ネットでは「NHKの峰不二子」と呼ばれることもあった中川さん。「そもそもNHK時代に、もっと若者に番組を知ってもらいたいとSNSをはじめたので、ネットニュースにならないより、あったほうが掴みになっていいかな」と語る一方で、「美人すぎる◯◯」といった見出しや、それに対する批判的なコメントを目にすることに「はぁ……」という気持ちになったと明かす。

 

「現地にいてもずっと気持ちが重かった」パリ五輪開会式の中継で着ていた衣装がネットで物議

 そして昨年、パリ五輪開会式の中継で着ていた衣装が物議を醸す出来事が起きた。白ジャケットの下に着たベージュのインナーが「裸に見える」と報道されたのだ。

「まさかそんなふうに見えるなんて」と中川さんは驚きを隠さない。「現場のスタッフも誰もそんな印象をもっていなかったので、なおさらです」。そもそも衣装は、スタイリストが「選手たちが金メダル取れるといいなということで、ゴールドのインナーを合わせてくれた」そうだ。

「毎日のようにさまざまなかたちで裸に見える衣装のことが書かれ続けていて、現地にいてもずっと気持ちが重かった」と当時の心境を吐露する中川さん。しかし、「自分らしくいて何が悪い? 絶対に屈しないぞ」と気持ちが強くなった部分もあるという。

「CNNの女性キャスターが自分の意見をはっきりと伝える姿、あの“自分らしさを堂々と表現する姿勢”に憧れがあった」と中川さんは語る。「そうやって自分を貫ける人がもっと増えてほしいな」という思いも強くなったという。

 中川さんは今年3月にNHKを退社し、フリーアナウンサーとして新たなスタートを切った。バラエティやコメンテーター、雑誌の撮影など多岐にわたる仕事をしながら、「自分が何に一番向いてるか、それはまだ模索中」と語っている。

 

<つづく>

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