「あんた、さっき私のお客さんに売ったよね?」売り子同士でバチバチの舞台裏

――自由ですね、西武ドームは。伊藤さんはビール売り子になってからすぐに売れるようになったんですか?

伊藤 いや、すぐには売れないですね。ボスみたいな売り子の先輩がいて、常連さんはその先輩が抱えているんですよ。なので、新規のお客さんを取っていかなきゃいけないんで、最初は結構苦労しました。

 ボスのお客さんが私に対して「○○ちゃん(ボスの名前)、いつ売りに来る?」とか聞いてくるから「知りません」とか答えてました。尖ってたんですよ、西武ドーム時代は(笑)。

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 ボスのお客さんに売っちゃったりすると、基地(バックヤード)に戻った時に「あんた、さっき私のお客さんに売ったよね?」と詰められるんです。ボスは20歳を超えてたんですけど、私も尖っていたから「え~っ、知りません」とか言って、しらばっくれてボスのお客さんに売ってましたね。

 

――売り子の舞台裏はバチバチしているんですね。

伊藤 友達はそのバチバチがすごすぎて、売り子をやめちゃいました。ただボスに何を言われようと、いつも試合に来ている常連さんを取りに行かないと売り上げって上がらないんですよ。

 当時はまだ球場で売り子をカメラで撮っても大丈夫で、売り子を撮りたいお客さんって撮影するためにビールを買ってくれるんですよ。

 逆にビールは買わずに望遠レンズで遠目から私を撮っている人を見つけたら、その人に近寄っていって「今、私のこと撮りましたよね? 撮ったんだったらビール買ってください」と迫ってました。ギャルだから押しが強いんです(笑)。

 西武ドームの頃はギャルマインド全開でした。お客さんと目が合ったと思ったら、とりあえずそのお客さんのところに行って、そうしているうちに私のことを覚えてもらって、だんだんお客さんが増えていきました。

売り子時代の伊藤愛真さん(写真=本人提供)

「お客さんからのチップもありました」高校生で1か月に50万円稼いだことも

――お給料は当時どのくらいもらえてたんですか。

伊藤 まず日給にプラスして、ビール1杯売る毎にインセンティブがついてました。そこに一定の数を売り上げた時の達成金、あとお客さんからのチップもありました。

 高校生にしたらすごくいいバイトで、1か月で50万円稼いだこともありました。それでもう、他のアルバイトができなくなっちゃいました。

――働く時間ってどのくらいになるんですか。

伊藤 西武ドームは試合の6回から7回ぐらいまでで終わりです。7回のラッキーセブンになってファンが応援歌を歌うと、西武ドームってパタッてビールの売り上げが止まるんですよ。だから、もう売る意味がないんで、ビールを買ってくれた人にお礼を言いながら帰ります。