「夏は汗が出るどころじゃなくサウナ状態」西武ドームのビール売り子の過酷な実態
――売り上げって対戦相手でも違うと聞いたのですが、どうでしたか?
伊藤 当時は楽天や大谷選手がいた日本ハムが強かったんですが、逆に西武はそんなに強くなかったので、その2チームの試合ではヤケ酒でビールがよく売れてました。
ホームランを打たれた時に行くと、お客さんみんなが「ああっ。もうビールちょうだい」って買ってくれて。そういう時は「ええ、かわいそう。頑張ってくださいね、応援♡」みたいに話しかけてました(笑)。
――西武ドームといえば、今年6月末にマウンドの今井達也投手が熱中症で倒れてしまうほど暑さが厳しいことで知られています。伊藤さんが働いている頃はどうでしたか。
伊藤 夏は汗が出るどころじゃなくサウナ状態で、水分補給しないと倒れそうなぐらいでした。なので、売り子は夏になると常連のお客さんの近くでおしゃべりしながらちょっと休んでました。それでも怒られないんですよ、西武ドームって。
お客さんも「休んでいきなよ」とか言ってくれるんで「あざっす」って言って、隣で15分ぐらい話してました(笑)。
最高で1日300杯もビールを売った「稼いだお金で軽自動車を買いました」
――お客さんで変わった人とかはいましたか?
伊藤 私から買ったビールをペットボトルに移し替えて、家に持って帰る人がいました。「家でも愛真ちゃんのついだビールを飲みたい」と言っていたので「ええ、すげえ。キンキンに冷やした方がうまいよ」とか返してました(笑)。
――完全に伊藤さんのファンですね。西武ドーム時代はどのくらい1日でビールを売ってたんですか。
伊藤 西武ドームでは1日300杯ぐらい最高で売ってました。多分、先輩よりも売れていたと思います。
――先ほど、ひと月で最高50万円を稼いでいたと話してましたが、高校生にしたら大金ですよね。何にお金を使ってたんですか?
伊藤 もともと何かのためにお金を貯めていたわけでなくて、ただ稼ぎたいとやっていたらお金がめっちゃ貯まっていた感じだったんです。なので高校に行くのにもたまにタクシーを使ってました(苦笑)。
あと免許を取ったタイミングで軽自動車を買いました。ただ、居眠り運転したトラックに後ろから突っ込まれて2か月で廃車になりました。奇跡的に助かったんですけど、死んでいてもおかしくなくて。あれはマジで危なかったです。
撮影=石川啓次/文藝春秋
〈つづく〉
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